富山大学と理化学研究所は,10兆分の1秒という極短時間のスケールで計測可能な最先端の分光計測法を用いて,水の中で分子の間の距離が伸び縮みする様子をリアルタイムで観測することに成功した(ニュースリリース)。
金属の原子やイオンの周りに,配位子と呼ばれる分子がいくつか結合したものを金属錯体という。白金の錯体は,多くのものが発光を示すことが昔からよく知られている。最近,分子が集合すると,とくによく光る現象が盛んに研究されている。
会合体の発光は,会合した分子の数,会合体の間の距離や配向などの様々な要因により,紫から赤色まで多様な変化を示すので,発光色のチューニングが可能な発光素子として注目されている。
距離や会合数は,会合体周辺の圧力や共存分子,蒸気,温度といった様々な因子により変化するので,発光センサーとしても注目されている。しかし,通常は会合体を単離することができないので,どのような会合体が発光に関与しているのか,正確に知ることは困難だった。
研究グループは,過渡吸収分光法という10兆分の1秒の間に起こる分子の変化を観測可能な分光技術を使って,最も基本的な会合性を示す白金の錯体であるテトラシアノ白金(II)錯体の水溶液に光を照射し,その直後の吸収スペクトルの時間変化を観測した。
その結果,光をあてた直後,スペクトルのピークの位置が,およそ10兆分の1秒という周期でゆれている様子が観測された。このスペクトルの「ゆれ」は,金属原子間距離が瞬間的に短くなり,この原子の動きに誘起された伸び縮み振動が続くことによって生じたことが分かった。このことは,会合体の中で金属原子の間に結合が生成したことを強く示す証拠でもあるという。
様々な波長により2種類の振動が混在していることが分かった。詳しく検討したところ,このゆれは,光によって励起された3量体と4量体に由来することが分かった。これは,長年信じられていたこの基本的な白金錯体会合体の発光色の帰属(4量体と5量体)を変更するもの。
さらに,振動の現れ方の波長による変化を調べたところ,3量体と4量体の吸収帯の位置を正確に決定することができた。この情報に基づき,1兆分の1秒の間におこるふたつの会合種の変化を分離する事ができた。
これらの結果は,発光材料として注目される白金錯体の化学のみならず,この研究で用いられた解析手法が,分子集合体の形成や会合構造の変化に関する研究全般の研究に新しい方法として着目されるものだとしている。