早稲田大学と大阪大学は,数十キロ電子ボルトから数メガ電子ボルトのX線ガンマ線を同時に可視化できる,コンパクトなカメラを開発した(ニューリリース)。
X線やガンマ線は透過力が極めて高く,レンズや反射鏡では集光できない。そこで,光子1つ1つを粒子として扱う「非集光型」イメージングが必須となり,様々な可視化装置が開発されている。しかしながら,個々の装置では守備範囲のエネルギーが異なり,一台の装置でイメージングできる薬剤や診断も限定される。
研究では従来のコンプトンカメラをベースに「アクティブ・ピンホール」という新たな概念を発明した。これにより,低エネルギーのX線・ガンマ線もあわせ一度に撮影できる「ハイブリッド・コンプトンカメラ (Hybrid CC)」を開発した。
まず,数百キロ電子ボルト以上のガンマ線はエネルギーの一部を電子に渡し,自らは別な方向へ散乱される「コンプトン散乱」を起こす。コンプトンカメラでは「散乱体」と「吸収体」で電子と散乱ガンマ線,両方の運動学を同時かつ正確に解くことで,入射ガンマ線の到来方向を決定する。
しかし,エネルギーの低いガンマ線は「散乱体」で全て止まり,「吸収体」まで届かない。そのため,通常コンプトンカメラで撮像できるのは,概ね200キロ電子ボルト以上のガンマ線に限られる。
回開発したHybrid CCは,散乱体アレイの中心に3x3mm程度のピンホールを開けることで敢えてX線・ガンマ線の「抜け道」を作った。低エネルギーのX線・ガンマ線はピンホールを通ったものだけが「吸収体」に到達し,その方向は吸収体の反応位置とピンホールを結ぶ線上となる。
鉛やタングステンを用いた通常の鉛などを用いたピンホール・コリメータと違い,散乱体であるシンチレータ自体が反応の有無や落とされたエネルギーを識別することが可能なため,「アクティブ・ピンホール」と名付けた。
つまり,低エネルギーのX線・ガンマ線は「散乱体が反応せず,吸収体のみでとらえた」イベント(ピンホールカメラ),高エネルギーのガンマ線は「散乱体と吸収体の両方が反応する」イベント(コンプトンカメラ)のみで画像を生成すれば,ワイドバンドのX線・ガンマ線同時イメージングが可能となる。
このHybrid CCを用いて原理検証を行ない,イメージング性能を実証した。研究グループはこの成果について,医療においては新たな診断方法の開拓,宇宙科学においてはX線ガンマ線観測の新しい窓を切り拓くものだとしている。