広島大学,物質・材料研究機構(NIMS),名古屋大学は,白い二酸化ケイ素と黒い酸化鉄の粒子を用いた構造色を,簡便な電着法で頑丈なコーティング膜として作製する技術を開発した(ニューリリース)。
研究グループでは,電気泳動堆積法(電着法)とよばれるコーティング膜作製法に着目し,この方法を活用して微粒子集積型の構造発色性材料を,塗膜として迅速に作製する技術の開発を行なってきた。材料に二酸化ケイ素の球状粒子の分散させた溶液を用いて電着法によるコーティングを行なうと,微粒子集積体からなる塗膜が得られるが,その膜はほとんど白色となる。
そこで,青い鳥の羽が構造色に加え,黒色の色素が重要な役割を果たしていることをヒントにし,黒い炭素や四酸化三鉄の粒子を二酸化ケイ素粒子に混ぜた分散液を用いることで,灰色ではなく,粒子のサイズに基づいて,青,緑,赤といった色相を有するコーティング膜が得られることを報告している。
また,電着法の特徴を活かし,複雑な形状の表面にも迅速に均一な厚さの塗膜を作製可能であることも,ステンレス製フォークへのコーティングで実証している。粒子分散液に添加物を加えたり,電着を行なう条件を調整したりすることで,粒子の並び方を規則的な状態のものと,乱れた状態のものに作り分けることにも成功している。
前者では,オパールのように見る角度で色が変化するタイプの構造色になり,後者では見る角度で色が変わらないマットな印象の構造色となり,これらを簡便に作り分ける技術も実現してきた。しかし,これらにおいてはその膜は非常に脆く,実用には不向きだった。
そこで,今回,電着法に工夫を施し,粒子を泳動させて基材表面に堆積させるだけでなく,同時に接着剤の役割を果たす物質を電気化学的に析出させ,これで粒子同士や粒子と基材表面を接着させる方法を考案した。
この方法で作製したコーティング膜は,これまでの方法で作製したものと比べ,耐摩擦特性が飛躍的に向上した。紙やすりを用いた試験では,従来のものはわずか1回の摩擦試験でほとんど塗膜は剥離したが,今回の方法で作製した塗膜は5回摩擦試験を繰り返しても十分に膜が残存し,その色を保った。
フォークにコーティングしたものを消しゴムに突き刺す試験でも,従来のものは膜が剥離し金属表面が露出してしまうのに対し,今回のものは剥離せず色を保った。
開発した色材は安全・安価な物質で得られるため,研究グループは,現在問題視されている重金属を含有する顔料や発がん性の懸念のある染料に代わる色材になることが期待されるとしている。