京都大学は,「ネマティック超伝導体」を一方向に圧縮することで電子ペアの配向パターンを制御できることを発見した(ニュースリリース)。
液晶ディスプレーでは,棒状の液晶分子の向きが一方向に配向した「ネマティック液晶」が用いられているが,超伝導の世界では,この液晶に似た「ネマティック超伝導」が最近見つかっている。
伝導電子が結合し多数のペアを作ることで起こる超伝導に対し,ネマティック超伝導は,この結合が特定の方向で強くなるようにペアたちが配向したもの。超伝導体は電気抵抗がゼロであるため電圧でのコントロールは期待できない。
一方,理論的にはネマティック超伝導は結晶変形「(ひずみ)の影響を受けると予想されている。しかし,その予想が実際に正しいのか,またドメイン構造に対してどのような変化を引き起こせるのかについては,分かっていなかった。
研究グループは,ネマティック超伝導をひずみによってコントロールできることを実証する研究を行なった。試料として,ストロンチウムを添加したビスマスーセレン化合物SrxBi2Se3(xはストロンチウムの添加量で,この実験では約0.06)の単結晶を用いた。
ネマティック超伝導の超伝導ペアの結合の強弱は,超伝導状態が破壊される磁場(上部臨界磁場 Hc2)の方向依存性から調べた。単一ドメインのネマティック超伝導体では,Hc2は180度周期の変化を示し,Hc2が大きい方向がペア結合の大きい方向と対応した。
一方,もし複数のドメインの存在するマルチドメインの状態が実現していると,Hc2は複数の180度周期変調の重ね合わさった複雑なパターンを示すことが期待できる。このパターンの特徴は,Hc2の大小のピークが60度おきに現れるという点で,各ピークが超伝導ペアの整列方向に対応する。
電気抵抗に超伝導の影響がほとんど見えなくなる磁場の値から決めたHc2の値を磁場の角度φに対してプロットした結果,結晶を変形させる前はHc2が複雑な変化をしており,その特徴は,まさにマルチドメインの状態に期待できるものだった。
一方,この試料に約1.2%の圧縮変形を与えると,これらの構造がほぼ消失した。これはほぼ単一ドメインの状態が実現していることを意味するという。さらに,ひずみを印加したり開放したりすることで,これらの状態の間を可逆的に行き来させることができた。
今回,ネマティック・ドメインの構造を,結晶に与えたひずみによってコントロールすることに成功した。これは「超伝導ドメインエンジニアリング」ともいうべき基礎・応用両面での新たな研究発展が期待できる成果だとしている。