群馬大学と静岡大学の研究グループは,ピントが異なる複数の画像を同時に撮影できる技術を開発した(ニュースリリース)。
通常のカメラはどこか一か所にピントを合わせた画像しか撮影できない。もし複数の異なるピントの画像を撮影したければ,まず撮影したい一つ目の位置にピントを合わせてそこの画像を撮影し,その後にピントを2つ目の位置に変更して,そこでまた画像を撮影する,という手順を撮影したいピント位置の数だけ繰り返す必要がある。
しかし,例えば走る子供のように動いている対象を撮影したい場合,ピントを変更している間に対象が動いてしまうため,同じ構図でピントを変えた画像を得ることはできない。また,例えば工場における画像検査で,複数の高さの異なる部品などがベルトコンベヤーで流れてくる場合には,それぞれの部品の高さに合わせてカメラのピントを変更する必要がある。
従来は,複数のピントが異なるカメラを用意するか,カメラにオートフォーカスの機能を付与する必要があったが,前者の場合は必要なカメラ台数が増える,後者の場合はオートフォーカスの反応を待つ必要があるため製品を流す速度が制限されてしまう,オートフォーカスを実現する機械の寿命が短い,といった問題があった。
これに対し,今回開発した撮影技術では,①一秒間に約70,000回,ピント位置を振動させられる高速な液体レンズと,②4つの画像格納領域をもち,それぞれについてナノ秒の精度で独立して多重露光ができる撮像素子を組み合わせることで,1台のカメラで実質的に同時に4箇所の異なる場所にピントが合った画像を撮影する。
具体的には,高速に振動するピントの位置が撮影したい場所にきた時に,100ns程度の非常に短い時間だけシャッターを開けて撮影する。これを,画像を格納する領域ごとに異なるピントの場所で行なうことで,異なるピントの画像を実質的に同時に計測する。また,一回のシャッターでは画像が非常に暗いため,ピントが同じ場所に来た時に約700回シャッターを開けて(多重露光),実用的な明るさの画像を計測する。
この撮影は光学的に行われるため,合成処理などは必要ない。また,複数のピントの画像を同時に計測できる類似の技術のように,計測した情報から特定のピントの画像を計算機上のソフトウェアで合成する必要もない。
この技術は,多品種を扱う生産ラインの画像検査や映像機器分野,医療やバイオ分野における,従来のオートフォーカスに代わる機能。機械的な機構がないため長寿命化も期待できるとしている。