東京大学と豊橋技術科学大学は,波長200nm以下の短い波長(真空紫外)で,電場の波がらせんのように回転する円偏光を,簡便かつ高効率に発生できる手法を開発した(ニュースリリース)。
真空紫外コヒーレント円偏光を用いれば,さまざまな物質のスピン状態や生体分子構造の,サブマイクロメートルの領域で生じる一瞬の現象を観測できるようになる。しかしながら,真空紫外領域では多くの物質が不透明となるために制御が困難であり,真空紫外コヒーレント円偏光の極短パルス光を発生させることは難しかった。
今回,研究グループは,可視光領域の円偏光フェムト秒レーザー光を,簡便に真空紫外領域の円偏光に変換する手法を開発することに成功した。ナノメンブレンに4回回転対称性を導入するために,正方格子状に周期的な穴を作製した。このようなフォトニック結晶は様々な光制御に用いられてきたが,真空紫外光への円偏光波長変換に用いられたことはなかった。
開発した手法では,シリコン基板上の厚さ48nmのエピタキシャルγ-Al2O3薄膜を用いた。CVD法で作製したエピタキシャルγ-Al2O3薄膜は引張張力を有しており,しわのないフラットなメンブレンを作製するのが容易。また,エピタキシャルγ-Al2O3ナノメンブレンは高い効率で真空紫外の第3次高調波を発生できることが明らかになっていた。
そこで,この薄膜に対して,MEMSや最先端微細加工装置を駆使して,直径190nmの穴を周期600nmで正方格子状に開けたフォトニック結晶ナノメンブレンを作製した。このナノメンブレンの大きさは300m四方。このフォトニック結晶構造の共鳴波長である波長470nmの円偏光フェムト秒レーザー(パルス幅100fs,繰り返し周波数1kHz)を入射したところ,波長157nmの真空紫外領域での第3次高調波を観測することに成功した。
さらに,その偏光状態を調べたところ,ほぼ入射偏光と逆回りの円偏光の状態となっていることが明らかになった。これは,右回り円偏光を入射すると左回り円偏光の真空紫外光に変換され,一方,左回り円偏光を入射すると,右回り円偏光の真空紫外光に変換されることを示している。
また,これらの実験結果は,数値計算シミュレーションによっても再現できた。この手法で発生した真空紫外コヒーレント円偏光のフォトン数は,1パルスあたり約105個であり,分光への実応用が期待される強度を達成できていることがわかったという。
今回の成果は,真空紫外の円偏光を簡単に作り出すことを可能とし,さまざまな分野において,機能性分子や機能材料を発見するのに役立つ分析技術につながることが期待されるとしている。