東大ら,X線で原発セシウムの生成・放出過程解明

東京大学らの研究グループは,放射光を用いた先端的なX線分析により,福島第一原発(FDNPP)事故由来の不溶性セシウム粒子(CsMP)の内部構造・空隙率・元素比を解明した(ニュースリリース)。

CsMPは,FDNPPから放出された放射性セシウム(RCs)を濃集する微粒子だが,環境中で採取された数が少ないため,その形成・放出過程,周辺での分布状況,形状や元素組成の系統的理解は進んでいない。また,微粒子であるため分析可能な手法が少なく,その完全な性状解明は未だ途上にある。

RCsを含むCsMPは水に難溶性であるため,環境中に長く残留して周辺環境や生体に長期間影響を与える可能性があるが,その生成過程や周辺環境での分布には不明な点が多い。また,こうしたCsMPの物質科学的な研究は,CsMPが原子炉内で生成した環境,ひいては事故時の炉内の状況を推定する上でも重要な意味を持つ。

研究グループは今回,効率的な分離手法(粒子を水に懸濁させて二分割し放射能測定を繰り返す)を開発し,道路粉塵などの環境試料から67個に及ぶ多数のCsMPを分離することに成功した。

さらに,放射光施設SPring-8,および高エネルギー加速器研究機構 フォトンファクトリーで進める最先端X線分析(マイクロX線CT 分析,マイクロビーム蛍光X線分析)を適用することで,主に50~400µmのCsMP(Type-B,1号機由来)の内部構造・空隙率や微量元素比を明らかにし,その結果を数µmの球状粒子であるType-AのCsMP(2,3号機由来;主に2号機とみられる)の結果と比較した。

その結果,CsMP(Type-B)には球状と不定形の2種の形状があり,これらは最大で50%に及ぶ空隙率を示した。また空隙率を補正した正味の体積当たりの137Cs 放射能は,球状Type-A粒子>球状Type-B粒子>不定形Type-B粒子であった。

これをマイクロビーム蛍光X線分析から得られた揮発性元素と非揮発性元素の比も考慮すると,(i)球状粒子は原子炉内気相中で生成した球形シリカ(SiO2)粒子が揮発性元素を取り込んだもの,(ii)不定形粒子は原子炉内の構造物上でメルトが冷えて生成したもの,であると推定された。

これらは,CsMP の生成過程,各号機から外部への放出過程,環境中での分布状態の解明に資するとともに,今後のRCsの環境中での移行挙動予測において重要な基盤となる。今後数10年かけて行なわれる廃炉作業を安全に進める上でも,多くの貴重な情報を与える成果だとしている。

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