高輝度光科学研究センター(JASRI),東京理科大学,応用科学研究所(RIAS),東北大学は,走査型軟X線磁気円二色性(Soft X-ray Magnetic Circular Dichroism: Soft XMCD)顕微分光装置を利用し,Sm2Co17系サマリウム・コバルト磁石(サマコバ磁石)の磁区が磁場印加によって変化する様子を鮮明に捉えた(ニュースリリース)。
SmCo5磁石やSm2Co17磁石などのSm-Co系磁石(サマコバ磁石)は,高い飽和磁化とNd-Fe-B磁石(ネオジム磁石)を大きく凌駕するキュリー温度(強磁性体が消磁し,常磁性体に変化する転移温度)を有することから,熱安定性が要求されるモータや加速器の四重極磁石に使われている。
しかし,ネオジム磁石に比べ角型性(磁化曲線の直線部分に傾きが見られず,その形状が四角形に近いほど,外部磁場がゼロにおける残留磁化が飽和磁化に近く,良い永久磁石とされる)が悪いことやリコイル特性(減磁曲線の直線部分(磁化変化が小さい所)で,磁場を0からマイナス方向に一度印加した後で,磁場を0に戻した時に見られる磁化の減少量)に劣ることなどがサマコバ磁石の実用化の上で問題となっていた。
研究グループは,大型放射光施設SPring-8 BL25SUのSoft XMCD顕微分光装置を利用し,Sm2Co17系サマコバ磁石の磁区が磁場印加によって変化する様子を鮮明に捉えた。サマコバ磁石の磁区観察に関する先行研究では,磁気的に弱い部分が磁石内部の粒界にあることが指摘されていたが,この研究では磁石内部に不純物粒として分布する希土類酸化物粒子と磁石粒子との界面近傍も主要な弱点であることを明らかにした。
つまり,粒界の改質(具体的には磁性を弱める),および,希土類酸化物の生成を抑制する生産プロセスを開発すれば,サマコバ磁石の特性がさらに向上すると考えられるという。これにより,より高温下での使用ならびに高磁気特性の長期安定的な維持が可能になり,一般の工業製品はもちろんのこと,その他にも例えば,航空・宇宙分野などへの貢献が期待されるとしている。