広島大学は,東京大学,スペイン・ロシア・アゼルバイジャンの研究グループと,相変化材料として知られるGeSb2Te4化合物について,ディラック電子が電気伝導を担っていることと,電子状態がトポロジカル絶縁体と同様のものであることを明らかにした(ニュースリリース)。
相変化材料は,同じ固体中で結晶相とアモルファス相の間で瞬時に電気抵抗率を数桁変化させることが可能な材料で,不揮発性メモリなどへの応用で注目を集めている。様々な化合物が,トポロジカル絶縁体と同様の特殊な電子構造を持つという理論予測がなされてきた一方,電気抵抗率の変化のメカニズムや,トポロジカルな側面の実験的検証については手付かずだった。
これらを明らかにするためには,フェルミレベル(固体中で電子が占有された最大のエネルギー)付近の詳細な電子構造への実験的なアプローチが必要となる。
研究グループは,相変化材料の一つであるGeSb2Te4の結晶相について,シンクロトロン放射光や角度分解光電子分光を行ない,グラフェンによく似た直線的なエネルギーバンドを捉えた。この結果から,質量ゼロのディラック型のエネルギーバンド(通称ディラックコーン)がGeSb2Te4の結晶相の電気伝導を担っていることを世界で初めて明らかにした。
さらに,時間・角度分解光電子分光を用いて実験を行なった結果,この化合物がトポロジカル絶縁体と同様の特殊な電子状態を持つことを初めて明らかにした。
注目されているグラフェンは,通常の半導体のようなバンドギャップが存在しないため,電子の伝導性を外部から制御して信号のオン・オフ比を大きくすることが難しく,電子・光学デバイスへの応用に大きな課題になっている。
相変化材料は外部制御により大きなオン・オフ比が実現できるため,GeSb2Te4はグラフェンの弱点を克服できるポスト・グラフェン材料として超高速電子デバイス等への応用が期待されるという。
さらに,GeSb2Te4の結晶相がトポロジカル絶縁体と同様の電子構造を持つことが明らかになったことから,トポロジカル絶縁体を利用した未解明の全く新しい量子現象を観測する舞台となることも期待されるという。
またトポロジカル絶縁体の最大の特徴である「スピン流」についても,キャリア制御をうまく行なうことで,このスピン流を利用した次世代のスピントロニクスデバイスとしての利用も大いに期待されるとしている。