東北大学とKEKの研究グループは,スピンの配列と強誘電性が強く結びつくマルチフェロイック物質YMn2O5において,強誘電性のミクロな発生機構を,放射光X線とミュオンの協奏的利用により明らかにした(ニュースリリース)。
YMn2O5では,横滑りらせん(サイクロイド)型という特殊なスピン配列の発達と共に強誘電性が現れることが知られている。この研究では,放射光による共鳴X線散乱(RXS)とミュオンスピン回転(µSR)を用いてYMn2O5中の酸素イオンのスピン偏極を詳細に調べ,サイクロイド型スピン配列の発達に伴って陽イオンのマンガンから陰イオンの酸素への局所的な電子移動が起きることを発見した。
このような電子の変位は強誘電性を誘起するので,マルチフェロイック物質の強誘電性の発現に電子変位が寄与していることを実験で確認した初めての例となった。
通常,スピン偏極の観測には,磁化測定や中性子散乱などの手法がよく使われる。しかし,酸素のような陰イオンで生じるスピン偏極は,大きさと密度が小さいためにこうした手法では観測が難しい。
そこで研究では酸素を狙い撃ちできるRXSとµSRを協奏的に組み合わせることで,その空間配置を定量的に評価することに成功し,マルチフェロイック物質の局所的な強誘電性の発現機構の一端を明らかにした。
これにより,これまで観測が困難であった物質中のミクロな現象を捉える上で,マルチプローブ利用が極めて有効であることも同時に示した。
研究グループは,物質中での誘電性と磁性の結合に対する微視的な理解がさらに進むことで,高性能マルチフェロイックデバイス開発のための新たな指針を得ることができるとしている。