東北大学,英ケンブリッジ大学の研究グループは,導電性高分子を用いた神経模倣素子の高性能化と動作原理解明を目指して研究を行ない,導電性高分子にイオン伝導性高分子を混合した活性層を用いることで神経模倣素子の応答速度を自在に制御できることを示した(ニュースリリース)。
脳の持つすぐれた情報処理能力を人工的に実現することを目的とした,「ニューロコンピューティング」の研究は,ソフトウエア,ハードウエアの両面から盛んに行なわれている。その中で脳の神経回路を構成するシナプスの動作を模倣した,「神経模倣素子」の研究は,ハードウエアの立場から注目を集めている。
研究グループは,中でも導電性高分子を用いた電気化学トランジスタという電子素子に注目し,これを神経模倣素子として駆動させることを目指した。この素子は電子とイオンの二種類の電気伝導を巧みに組み合わせて動作させる素子であり,(1)水中で動作する,(2)プラスチック基板上へも作製可能,(3)伸縮性を有することから,身に着けて用いるウエアラブル機器への応用が期待されている。
以上のように優れた特長を有する電気化学トランジスタ型の神経模倣素子だが,その動作原理は必ずしも明らかではない。特に電気化学トランジスタにとって重要な,「素子中でのイオンの動きやすさと神経模倣動作の関係」が明確ではなく,応用にとって重要な設計指針が立てられない状況にあった。
そこで研究グループは,この分野で広く使われる導電性高分子PEDOT:PSS に,イオンのみを伝導するイオン伝導性高分子PSS-Naを混合した素子群を作製し,電気物性評価によって神経模倣動作の指標である「情報保持時間」を測定した。
その結果,イオン伝導性高分子の添加に伴って素子の情報保持時間は短くなり,無添加の素子に比べて最大で約5倍の変化があることを明らかにした。このことは素子内での情報保持がイオン拡散によって決定づけられていることを意味するという。
このように今回の研究では,神経模倣素子の応答速度を自在に制御するための設計指針の確立に成功した。今後は動作原理のさらなる解明に向けた基礎研究と,素子を複数組み合わせた回路網の構築に向けた応用研究の両面から研究展開が期待されるとしている。