京都大学,香港城市大学,中国 南京大学,中国科学院の研究グループは,光子が,さまざまな波長(色)の対となった「量子もつれ」状態を,集積化可能な「半導体チップ」として,光通信で最も良くもちいられる波長域において,同種の素子において世界最大の波長域とモード数で実現することに成功した(ニュースリリース)。
電子や光子などの量子は,通常の物体とは異なった振るまいをする。その量子の個々の振るまいや相関(量子もつれ)を制御することで,飛躍的な計算能力を実現する量子コンピューターや,盗聴不可能な暗号を実現する量子暗号,さらに,従来の計測技術の限界を超える量子センシングなど,「量子技術」の研究が精力的に進められている。
その中でも,光子は,長距離伝送が可能で,また室温でも量子状態が保存されるため,有力な担体。特に,光のさまざまな波長(色)の対となった「量子もつれ」光源の活用が注目されている。
これまでに,光のさまざまな波長(色)の対となった「量子もつれ」光源の発生方法としては,特殊な石(非線形光学結晶)において生じる非線形光学効果が用いられてきた。
ただこの方法では,非線形光学結晶の大きさが数cm程度と大きく,また一般的に集積回路の作製にもちいられているシリコン半導体素子ともその作製方法も大きく異なっているため,小型化,集積化が困難だった。
研究では,光子発生用の素子として,高屈折率コントラストガラスとよばれる材料を利用した光導波路によって作成したリング共振器を用いた。この素子は,一般的なシリコン半導体素子を作成するのと同じプロセス・装置で作製することが可能。リング共振器の直径は約1.2mmで,高品質なリング共振器を用いる事で,高効率化が可能になった。
この共振器に,波長1.55μmのレーザー光(ポンプ光)を入射すると,非線形光学効果により,ポンプ光の2つの光子が,そのエネルギーの和が保存される形で,別の2つの光子(シグナル光子とアイドラー光子)に変換される。
今回,そのシグナル光子,アイドラー光子の対として,既報告値で最大の23.6nmの帯域,59の共振モードに渡って発生させることに成功した。これらは,同種のリング共振器を利用した半導体素子による,従来の最大の値(それぞれ 16nm,40の共振モード)を大きく更新する。
今回実現した光源は,光量子コンピューターや,量子暗号の高度化,また光量子センシングなどの集積化(チップ化)にブレークスルーをもたらすとしている。