名古屋大学,量子科学技術研究開発機構,兵庫県立粒子線医療センター,米University of California,国立台湾大学の研究グループは,粒子線がん治療に用いる炭素線を照射したときに生じる即発X線画像に対して,深層学習を用いることにより,正確な線量画像を生成することに成功した(ニュースリリース)。
粒子線がん治療は,効果の高い放射線治療法だが,治療ビームの体内飛跡や到達位置を非侵襲的にその場で画像として得られれば,治療計画どおりに照射が行なわれたかどうかを照射中に確認できる可能性がある。そのため,治療ビームを粒子線照射中に画像化する手法の研究開発が世界各国で精力的に進められている。
粒子線を照射したときに生じる即発X線画像から到達位置を計測することは可能になっているが,その分布が照射した放射線の線量とは異なるという問題点があった。また,測定時間などの制約から,測定される画像は比較的統計的雑音が多いという問題点もあった。
一般的な画像処理法は精度良く到達点を求めるためには不十分であり,また得られたX線画像から線量分布を得ることは不可能だった。
今回研究グループは,深層学習を用いた線量画像推定を実現するために,計算により高速で即発X線画像と線量画像を作成する方法を考案し,短時間で10,000対の画像データの作成に成功した。
この膨大な画像データを深層学習アーキテクチャに学習させ,測定データを入力することで線量画像を生成することを可能にした。このアルゴリズムでは測定画像から線量画像を生成するのみならず,生成した画像からさらに高分解能の画像を生成できるように2段階の深層学習を行なった。
学習させたアルゴリズムに,実測した3種のエネルギーに対する炭素線照射即発X線画像を入力して得られた出力画像は,入力画像とは全く異なり,線量分布に比例した画像を得ることができた。得られた線量画像は空間分解能が非常に高いうえに,実測画像で観察された統計雑音が無くなり,極めて鮮明な画像になった。
今回の成果は,即発X線画像化法に深層学習を組み合わせることにより,飛程のみならず線量分布を得ることが可能であることを示したもの。今後,さらに最適化を図り,放射線画像化装置に組み込み,治療現場への普及を目指していくとしている。