北海道大学の研究グループは,光照射下で継続的に分子構造を変換する「アゾベンゼン」という分子の結晶の運動が,受ける光の特性によって大きく変わることを明らかにした(ニュースリリース)。
分子マシンの一つに,エネルギーを与えると決まった方向に動き続ける分子モーターがある。化学的に合成した小さな分子モーターで,実際に何かを動かし続けることは,複合的な要因で極めて難しいことが知られている。一方で,この難題を解決すれば,分子モーターを実社会の中で役立てられるようになり,物質社会に根本的な変革が訪れると期待されている。
研究グループは,2016年に光照射下で自律的に反復運動を続ける結晶を世界で初めて報告した。自律とは,結晶が自ら運動を継続することを意味する。
この結晶は,アゾベンゼンという光照射下で繰り返し形状を変える分子と,オレイン酸という天然由来の分子の混合物でできていた。アゾベンゼン分子の継続的な形状変化と,結晶の構造変化が連携することで,結晶の明確な周期運動が可能になっている。
この研究では,まず化学的に合成して得た分子(アゾベンゼン)だけで作った結晶で,反復運動を続けさせることに成功した。次に,その結晶のX線構造解析に成功した。
結晶の中では,全てのアゾベンゼン分子が同じ方向を向いているわけではなく,異なる方向を向いた六個の分子が一つのユニットを作り,そのユニットが整列していることがわかった。
また,結晶の中には,「すき間が大きく分子が動きやすいところ」と「すき間が小さく分子が動きにくいところ」がミルフィーユ状に並んだ柔らかい構造を形成していることもわかった。
これらの実験結果を踏まえて,照射する光を偏光にした時の結晶の自律運動様式を観察した。偏光ではない時は,六通りの方向を向いたアゾベンゼン分子のいずれもが光を受けることができるが,偏光を用いた時には,偏光の方向と合致する方向を向いたアゾベンゼン分子だけが光を受けることができる。
観察してみると,偏光の向きによって反復運動の様式が大きく変わった。これはどのアゾベンゼン分子が光を受け取るかによって,結晶の運動が大きく変わるということを示している。
この成果は,踊る(リズミカルに動く)という動作を可能にする分子モーターと,偏光を感知して“振り付け”をアレンジする分子センサーとの“分業協力体制”で,多彩な踊りをみせる化学的な小さなロボットを世界で初めて実現したもの。
今後,感知の次段階として,複数の情報を感知しその情報を演算して自分の動きを決定する「情報演算型自律運動材料」の実現が期待されるとしている。