東北大学,英,独,スイスの研究グループは,3次元でらせん状のナノスケールネットワーク構造を有する「ジャイロイド」を磁性体で形成し,電子線ホログラフィーなどの手法を駆使してその複雑な磁気構造を明らかにした(ニュースリリース)。
ジャイロイドは2つの三叉路が捻じれて対となった細線構造が組み合わさって単位胞を形成し,それが周期的に繰り返されたネットワーク構造を有する。構造は複雑だが,高分子化合物からなる3次元的な鋳型を利用するプロセスを用いることで,自己組織化的に形成できる。
ジャイロイドはらせん状の構造を有していることから,それに由来した興味深い物理現象が発現されると期待される。例えば,これまでに光学の分野ではジャイロイドが位相幾何学的(トポロジカル)な物性を発現することが報告されている。
磁性体においてもスピン波の伝搬や電子・スピンの輸送現象において特異な性質が発現されることが予測されるが,これまでは主には実験の難しさから,その報告例はほとんどなかった。
研究グループは自己組織化の手法を用い,単位胞のサイズが42nmで,細線の直径が11nmの二重ジャイロイド,一重ジャイロイドを作製することに成功した。この長さスケールは磁壁の幅やスピン波の波長と同程度であり,これにより興味深いスピントロニクス関連物理現象が発現されることが期待される。材料には代表的な磁性体であるNiとFeの合金が用いられた。
作製した磁性ジャイロイドの磁気構造を電子線ホログラフィーと呼ばれる手法で観察した。この手法を用いることでジャイロイド内の磁化,及びその内外の磁場分布を数nmの空間分解能で可視化できる。
有限要素法を用いたマイクロマグネティクスシミュレーションも併用し,磁性ジャイロイド内の磁気的な構造を解析した。その結果,磁性ジャイロイドは長いスケールで周期性のある単一かつ単純な磁気構造を形成しているのではなく,エネルギー的にはそれよりも高い複雑な(エントロピーの高い)磁気構造を形成していることが明らかになった。
得られた知見は,音声などの時系列情報の処理を得意とするリザバー計算機などの新概念コンピューターへの有用性を示唆するものであり,今後基礎・応用の両面で様々な展開が期待されるとしている。