沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究グループは,電子の動きが流体によってどのように影響を受けるか観察実験を行ない,オームの法則の破れを観察した(ニュースリリース)。
電子が固体ではなく液体上にある場合,オームの法則が破られる可能性がある。研究グループはこのことを実験で測定したいと考えた。
研究グループは実験に超流動ヘリウムを使用した。超流動ヘリウムは他の液体では凍結してしまう絶対零度まで液体のままで,粘度がゼロの流体のようにふるまい,抵抗が生じない。また液体の電子は,液体ヘリウムに沈むのではなく,表面にとどまることができる。この特質を利用することで,2D電子システムを利用することができた。
まず,Tジャンクションで3つの電子の溜池を接続したマイクロスケールの微小構造体を構築し,流動ヘリウムにわずかに沈めた。電子が移動して液体にの状態を乱すと,さざ波(リプル)が発生する。電子密度が高いと,電子は波の間の浅いくぼみに閉じ込められる。
ここで発生するポーラロンは,従来のポーラロンとはわずかに異なり,水の波紋と類似しているため,「リプル・ポーラロン」と名付けた。ポーラロンとは,周囲にある媒体の雲の「衣をまとった」電子。雲の衣をまとった電子は,重く,遅くなり,ふるまいが変わる。
オームの法則では,電子はTジャンクションで分かれるはずだが,運動量保存の法則により,流体の流れは直進する。今回研究グループは,トラップされた電子,リプル・ポーラロンがオームの法則を破り,すべての電子が同じ方向に運ばれることを説明した。
構造体に電場をかけたところ,リプル・ポーラロンは電子の溜池から移動した。チャネルに沿ってジャンクションまで来た後,向きを変えて横にある電子の溜池に行くか,そのまま直進する2通りの可能性があった。結果,リプル・ポーラロンはオームの法則ではなく,運動量保存の法則に従い,電子の溜池から別の溜池までまっすぐに流れた。
しかし,このオームの法則に反したふるまいは,特定の状況下でのみ発生した。電子の密度が高くなると,リプル・ポーラロンは形成されなかった。また温度も低くないと,電子の波は飛び出してしまう。反対方向の電子の溜池から流す実験を行なうと,電子はこちらでも同一方向への直進の動きが観察された。
ところが,側面に位置する電子の溜池から電子を流した場合は,リプル・ポーラロンが上部の壁に衝突し,波が消え,(自由となった)電子は再びオームの法則に従うように動いた。
流体中の電子は,量子コンピューターを構成するキュービットの構築に役立つ可能性がある。 量子ビットの流体に電子を使用できれば,コンピューター用の,柔軟で移動可能なアーキテクチャの作成もできるとしている。