東工大,マイクロ波で反応促進する薄膜構造発見

東京工業大学,産業技術総合研究所の研究グループは,マイクロ波を用いて酸化鉄(α-Fe2O3)電極による水の酸化反応が促進する機構を明らかにした(ニュースリリース)。

マイクロ波を固体触媒反応に応用することで,触媒に効率的にエネルギーが投入され,触媒反応の促進効果が現れる。研究グループは触媒反応素過程として重要な電子移動過程について,マイクロ波による加速効果が生じることを見出している。

たとえば,硫化カドミウムから電子受容体への光誘起電子移動反応では,硫化カドミウムの蛍光光度測定により,マイクロ波によって電子移動過程が加速されていることを証明した。

また,ニッケル粒子による有機分子の還元反応においても,マイクロ波照射によって電子移動過程が加速していることがわかっている。しかし,生成物の定量による間接的な測定ではなく,直接的に電子移動を定量できる系が必要だった。

今回の研究では,電着法とパルスレーザー堆積(PLD)法によりTiO2(二酸化チタン)基板上に堆積状態の異なる酸化鉄(α-Fe2O3)薄膜を作製し,薄膜の性状の違いがマイクロ波の応答性に及ぼす影響を検証した。

マイクロ波照射下で電子移動を直接観測することができるin situ(その場で)電気化学測定システムを用いて,酸化鉄電極を用いた水の電気化学的酸化反応を観察した。

酸化鉄電極による水の酸化反応中に,マイクロ波をパルス照射したところ,2種の電極でマイクロ波照射直後に電流値が急峻に増大した。これは,マイクロ波によって,水の酸化反応が瞬間的に加速されていることを示している。

さらに,電着法による酸化鉄微粒子が堆積された薄膜は,PLD法で作製した表面が平滑な薄膜と比較して,マイクロ波を照射した場合に1.89倍の大きな反応加速が生じた。

そこで,電着法で作製した薄膜とPLD法で作製した薄膜において,マイクロ波による反応促進の程度が異なる要因を調べるため,走査型マイクロ波顕微鏡を用いて,サブミクロンスケールの局所領域のマイクロ波吸収特性を評価した。電着法で作製した酸化鉄微粒子の多い薄膜では,形状像で粒子間において,大きなマイクロ波吸収が生じていることが分かった。

一方で,PLD法で作製した平坦な薄膜では,局所的なマイクロ波吸収は見られなかった。これらの結果より,マイクロ波促進効果は,反応場となる固体表面の酸化鉄粒子の空隙・接触部分におけるマイクロ波吸収の増大によって引き起こされると結論した。

今回の研究成果により,機構の理解が進めば,マイクロ波のエネルギーを有効に利用できる触媒設計の指針が得られ,あらゆる触媒反応を簡便に遠隔で促進できるとしている。

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