東洋紡は,有機薄膜太陽電池(OPV)用に開発中の発電材料について,薄暗い室内で世界最高レベルの変換効率を実現するガラス基板のOPV小型セルや,軽くて薄いPETフィルム基板のOPVモジュールの試作に成功した(ニュースリリース)。
OPVは,炭素や硫黄原子などを含む有機物の発電材料を溶媒に溶かし,電極を有するガラスやプラスチックの基板上に塗布するなどの方法で作製される太陽電池。軽くて薄い形状にもできるため,現在普及している無機太陽電池では設置が困難な,壁面や布地などにも貼付が容易で,IoTに欠かせないセンサー類やウェアラブルデバイスのワイヤレス電源として,普及が期待されている。
同社は,ファインケミカル事業で長年培った有機合成技術を応用し,低照度の室内用光源でも高い出力が得られるOPV用発電材料の開発に取り組んできた。開発中の材料は,ノンハロゲンの溶媒にも容易に溶かすことができ塗布時のむらが抑えられるため,個体差が少なく安定した発電が可能でだという。
この材料の早期実用化に向け,昨年6月より半年間,フランスの政府系研究機関CEAと共同研究を実施。溶媒の種類や塗布の手法を最適化したことで,世界最高レベルの変換効率を実現するガラス基板のOPV小型セルの試作に成功した。
薄暗い室内と同等である220ルクスのネオン光源下の検証では,卓上電卓に使用されるアモルファスシリコン太陽電池の1.6倍に相当する約25%の変換効率を確認した。また,ガラスよりも発電材料の塗布が難しいPETフィルムを基板にしたOPVモジュールの作製にも成功。有効面積18cm2の試作品が,同照度下で約130μWの出力を達成したとする。
同社は今回の共同研究で得たノウハウをもとに今後,電池メーカーを中心にこの材料を提案。まずは温湿度センサーや人感センサーなどのワイヤレス電源用途で,2022年度中の採用を目指すとしている。