理研,ガラス状態の分子運動不均一性の解消を観測

理化学研究所(理研)の研究グループは,X線光子相関分光法(XPCS)を用いて,ガラス転移温度付近の「ガラス状態」で見られる分子運動の不均一性が,「ずり」と呼ばれるひずみによって解消される現象の観測に初めて成功した(ニュースリリース)。

ある種の液体を一定以上の速さで冷やしていくと,粘性が増して急に流れにくくなり,ガラス転移を起こす。ガラス転移を起こした状態は「ガラス状態」と呼ばれ,温度の高い液体に比べると100億倍以上も粘性が大きく,固体のように硬いものの,構成する分子が規則正しく並んだ結晶とは異なり,分子がランダムに位置する液体のような構造(アモルファス構造)をしている。

液体状態とガラス状態を区別するには,分子運動の違いを指標とすることが有効となる。液体状態では,分子運動の速さはほとんど均一なのに対し,ガラス状態では,分子運動の速い領域と遅い領域が混在しており,これを「動的不均一性」と呼ぶ。

20年以上前,計算機シミュレーションを用いた研究により,動的不均一性は「ずり」と呼ばれるひずみを加えることで解消され,分子運動の速さが均一になることが予言された。しかし,実際にその様子を観測した例はこれまでなかった。

研究グループは,大型放射光施設「SPring-8」で,コヒーレントX線による分子運動の測定手法であるXPCSを用いて,ポリ酢酸ビニルに分散させたシリカ微粒子の運動をnmスケールで調べた。ガラス転移温度付近において,さまざまな速度の「ずり」を試料に加えることで,微粒子の運動がどのように変化するかを観察した。

試料にずりを加えると,微粒子はずりに平行な方向と垂直な方向では異なる運動をする。すると,ずり平行方向に散乱されたX線の方が,ずり垂直方向に散乱されたX線よりも速く揺らぐ。この異方的な揺らぎを解析することで,観察領域におけるずり速度を精密に求めた。

次に,ずり速度と微粒子の動的不均一性の関係を調べた。ずり速度が小さいときには,運動が速い領域と遅い領域が混在する不均一な分子運動が見られたが,ずり速度が大きくなるにつれて分子運動の速さは均一になり,動的不均一性が解消されたことが分かった。

ガラス転移は,窓ガラスやコップに使われるようなガラスだけでなく,プラスチックなどの樹脂材料にも広く見られる現象。材料の構造均一性が品質に大きな影響を与えることは認識されているが,動的不均一性と品質の関係についてはこれまで注目されてこなかった。この研究で用いた評価手法は,今後,さまざまな材料の品質評価の新たな設計指針になるとしている。

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