東大,光スイッチングできる超イオン伝導体を発見

東京大学の研究グループは,光スイッチング効果を示す超イオン伝導性極性結晶を世界で初めて発見した(ニュースリリース)。

イオン伝導度が10−4Scm−1を超える高い伝導性を持つ固体材料を超イオン伝導体と呼ぶ。開発したのは,鉄-モリブデンシアノ骨格錯体にセシウムイオンを含んだ3次元ネットワークで構成されるセシウム-鉄-モリブデンシアノ錯体(Cs1.1Fe0.95[Mo(CN)5(NO)]·4H2O)という青色の物質。

結晶構造解析の結果,正の電荷をもつセシウムイオンと負の電荷をもつ鉄-モリブデンシアノ骨格の重心のずれにより自発分極を有する極性結晶であることがわかった。また,ネットワークを構築するニトロシル(NO)基の酸素原子と水分子からなる1次元の水素結合ネットワークが存在していることも明らかとなった。

イオン伝導性測定の結果,45℃で相対湿度100%におけるイオン伝導度は4.4×10−3Scm−1と非常に高く,超イオン伝導体に分類されることがわかった。この超イオン伝導は,ニトロシル基と水分子が形成した水素結合ネットワークを介してバケツリレーのようにプロトン(H+)が運ばれるメカニズムで生じていることが示唆された。

この物質のセシウム-鉄-モリブデンシアノ錯体は,光応答性が期待されるニトロシル基を含んでいるため光照射実験を行なった。湿度が制御された容器内で錯体に532nm光を照射したところ,イオン伝導度は1.3×10−3Scm−1から6.3×10−5Scm−1へと二桁も低下した。

一方,光照射後,時間経過にともない超イオン伝導は回復した。この光スイッチング現象は,モリブデンイオンとニトロシル基の結合角度が光照射で可逆的に変化する光異性化現象に起因しており,結合角度の変化により水素結合ネットワークが一部切断されることで,超イオン伝導を担っているプロトン伝導度が低下したものと考えられるという。

また,この物質は通常は共存しない超イオン伝導性と極性結晶構造が共存する材料であることが分かった。強誘電体や焦電体などの極性結晶は,電気分極を有する誘電体(伝導率が10−8Scm−1以下)に分類され,電気抵抗の観点から超イオン伝導性と極性結晶構造は単一の材料には現れない。

そこで,二次の非線形光学効果の一つである第二高調波発生(SHG)の検討を行なった。1040nmのレーザーを試料に照射したところ,波長が半分の520nmの光の出射が観測され,SHG出射が確認された。SHG顕微鏡によっても個々の粒子からSHGが観測されている。

光でイオン伝導度がスイッチングできるこの物質の性質を使えば,将来,電池のON/OFFを光で行なうこともできるようになるとしている。

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