愛媛大学,東京医科歯科大学の研究グループは,位相差顕微鏡で撮影した培養状態にあるヒト表皮角化幹細胞の品質を自動評価する画像処理技術を開発した(ニュースリリース)。
再生医療では,採取・培養した幹細胞の品質が,その後の治療の成否に大きな影響を与える。研究グループはこれまでに,幹細胞コロニーの動きから幹細胞の品質が評価できることを明らかにしている。
しかしながら,幹細胞の増殖や分化に必要な環境を整えるフィーダー細胞と共培養するため,角化細胞の認識には手動によって細胞移動速度を測定していた。これには時間と労力を必要で,ヒューマンエラーといった問題も含んでいた。
フィーダー細胞とヒト表皮角化幹細胞コロニーの位相差顕微鏡画像には二つの特長がある。一つ目は核小体と細胞質領域が暗い領域として観測され,核小体が細胞質領域に囲まれていること,二つ目は細胞境界が明るい線として観測される。これらの特長に着目した画像処理技術を用いて,核小体の中心点と細胞境界の分岐点を抽出した。
コロニー領域には,核小体ならびに,細胞境界の分岐点が多く含まれることに着目して,抽出された核小体の中心点,細胞境界の分岐点をサンプル点と見なしてカーネル密度推定を適用することで,画素のコロニー領域らしさの尺度を数値化した。その尺度に対するしきい値処理を適用することで,フィーダー細胞の領域とコロニー領域とを弁別する。
つぎに,ヒト表皮角化幹細胞コロニーの細胞移動速度を算出する方法については,画像の明るさパターンの各画素における見かけの動き(オプティカルフロー)は,明るさの空間的な違いと時間的な違いから算出することができる。
そこで,DeepFlowと呼ばれるオプティカルフローを計算するアルゴリズムを使って,抽出されたコロニー領域の移動速度を算出した。今回,目視で計測したコロニーの移動速度とオプティカルフローで推定したコロニーの移動速度を比較すると,数値(r=0.93)は両者の相関係数を表し,非常に高い精度で自動計測できていることを示したという。
適切な培養条件は幹細胞の特性を維持するために不可欠であり,信頼性の高いリアルタイム監視方法の開発は,再生医療にとって重要。画像処理に基づく幹細胞培養状況のモニタリングは非侵襲的であり,産業への応用も可能だとしている。