物質・材料研究機構(NIMS),大阪大学,フィンランドAalto大学,スイスBasel大学の研究グループは,走査型プローブ顕微鏡の探針を用いて,一つの分子内の特定の位置に対して,臭素原子やフラーレン分子を直接的に付加反応させることに成功した(ニュースリリース)。
走査型プローブ顕微鏡の撮像技術が大幅に向上し,物質の表面上に吸着させた単分子一つの構造を直接的に観察できるようになった。さらに,その探針を使って分子から特定の原子を取り除く構造変化も可能となり,一つの分子を操作して望みの物質を合成するボトムアップ型の化合物合成が世界的に試みられている。
特に,優れた電気伝導性や強靭さを持つグラフェンなどの炭素ナノ構造体は将来のエレクトロニクスを支える材料として期待され,炭素以外の原子を導入する試みが行なわれているが,特定の部位に,別の原子や分子を直接くっつける付加反応はこれまで困難だった。
今回研究グループは,ユニークな構造の3次元グラフェンナノリボンを合成し,飛び出ている臭素原子の特定部位をフラーレン分子に置き換える反応に成功した。まずは前駆体分子を加熱し重合反応によって3次元グラフェンナノリボンを合成した。飛び出ている臭素原子を取り除くと,通常溶液中では不安定になってすぐに他の分子と反応してしまう。
そこで,極低温超高真空という極限環境で臭素原子が取り除かれた状態を維持し,さらに探針の先につけた臭素原子やフラーレン分子を,その反応性の高い部位に直接的に取り付けることで,特定部位へ行なう付加反応に初めて成功した。
探針で直接的に分子の構造を操る有機化学は,従来の溶液中の化学では得られなかった単分子レベルの反応を行なうことができる。特に,グラフェンナノリボンの合成に用いる表面化学反応と本技術を組み合わせることにより,より多彩かつ高機能な炭素ナノ構造体の実現に繋がる。これらグラフェンナノリボンはバンドギャップを持つため,ナノエレクトロニクスの素子としての応用が期待されるという。
一方で,この手法でおこなう単分子化学は究極の合成として,基礎学理としての発展も望まれるとしている。