大阪府立大学の研究グループは,レーザーを照射しているにもかかわらず生体サンプルを低ダメージかつ培養フリーで高密度に濃縮できる「ハニカム型光濃縮基板」の開発に成功した(ニュースリリース)。
細菌を生存状態で基板上に迅速に高密度集積化する技術は,目的とする細菌を培養で増やすことが困難な場合に微量の代謝物の評価や,有用細菌の代謝機構を用いた微生物テクノロジーの発展において切望されている。
研究グループは,サイズが数百nm~数μm程度の細菌に対し,1μm~10μm程度の大きさの細孔を密に配列した基板を準備できれば,接触面積を最大化でき,外場で遠隔的に多数の細菌を生きたまま基板上に濃縮・トラップ(捕捉)することで機能を最大化できるはずと考えた。
水滴を鋳型としてポリマー膜中にハニカム状の細孔を自己組織的に形成し,その表面に金属ナノ薄膜(膜厚50nm)を形成することで高効率な光発熱基板を開発した。このハニカム基板の隔壁部分に赤外レーザー(1064nm)を照射をすることで生じた「光誘起対流」により,鞭毛を持ち走化性のある緑膿菌と走化性の無い黄色ブドウ球菌を集積化し,生存率を評価した。
また,電流発生菌も光集積の対象としてレーザー照射点数を変えて集積し,その後にハニカム基板に電圧印加の下で発生する電流密度の測定を行なうことで機能評価した。
その結果,ハニカム状の光熱フィルムにわずか20秒間レーザー(出力80mW以下)を照射するだけで,発生した対流を使用して細菌の高密度集積(106〜107cells/cm2)ができることを実証した。さらに,レーザーパワーの範囲で,80~90%の高生存率を保ちながら各ハニカム細孔に高密度に捕捉されていることも分かった。
電流発生菌も光学的に濃縮・集積でき,レーザー照射の回数を増やすだけで,電流密度を1~2桁増大することが分かった。これは細菌が生きたまま(機能保持したまま)トラップできていることを強く支持する結果であり,細菌の機能を維持しながら高機能な微生物デバイスの開発にハニカム型光濃縮基板を利用できることを示唆する極めて重要な結果だという。
この手法を食中毒菌などの悪性細菌を対象とした場合には,迅速・高感度・簡便な飲食物の検査技術や,悪性細菌から分泌される毒素の評価,ウイルス検出などにも利用できる可能性があり,様々な生体ナノ物質(DNA,タンパク質など)にダメージを与えない光濃縮技術などへの展開も期待できるとしている。