神奈川大学の研究グループは,イオン注入法を用いて,ダイヤモンド基板中にドーピングした不純物ボロンの実用レベルでの高効率p型活性化に,世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
ダイヤモンドはバンドギャップ5.5eVのワイドギャップ半導体であり,知られている半導体材料の中で最も高い絶縁破壊電界や熱伝導率を有することから,次世代の省エネルギー高出力パワー半導体デバイス基板として期待されている。
これまで1970年代から約50年にわたり世界中の研究者により,ダイヤモンド半導体実現に向けた研究がなされてきたが,様々な理由から未だ実用化には至っていない。
実用的な半導体デバイスの作製には,高品質基板の安定的供給とp型・n型キャリア伝導性の制御,動作温度におけるキャリアの十分な電気的活性化が不可欠となる。特にデバイスの微細構造形成には,p型およびn型領域の高度なドーピング制御が求められる。
シリコンテクノロジーでは,イオン注入法を用いて,指定の領域と深さに対して不純物原子をドーピングすることが一般的な手法となっているが,ダイヤモンド基板へのイオン注入による不純物ドーピングとその実用レベルでの電気的活性化に成功した例は皆無だった。
研究グループは,これまで不可能だと思われていたイオン注入によるダイヤモンドへの不純物ドーピングと電気的活性化に関する研究を10年以上にわたり取り組んできた。
まずこの研究において,高品質ダイヤモンド基板に対して,基板温度室温で130nm深さまで一様な濃度でボロンイオン注入を行なった後,1150~1300℃程度の比較的低い温度で加熱処理することにより,注入したボロン原子の約80%がダイヤモンド炭素原子と置換されることを見出した。また,キャリアの移動度もドーピングされた不純物の濃度に対して期待される値に匹敵するものが得られた。
特にこの研究の成功に当たって重要な役割を果たしたものが,液体窒素温度(-196℃)から1000℃の広い温度範囲において4インチ領域に一様にイオン照射可能な200kV中電流型イオン注入装置だという。
この研究によりイオン注入法を用いたダイヤモンドへの不純物ドーピングに実用レベルで成功したことで,ダイヤモンドパワーデバイス実現への大きなブレイクスルーとなったとしている。