東京大学の研究グループは,アルマ望遠鏡を用いて,地球以上に複雑で分厚い大気を持つ土星の衛星「タイタン」の大気を観測し,微量な分子ガスが放つ電波の検出と解析に成功した(ニュースリリース)。
アルマ望遠鏡を用いた「タイタン」の大気の観測により,微量の分子ガスが放つ電波が検出された。詳しい解析の結果,太陽系の外から降り注ぐ放射線の一種である「銀河宇宙線」がタイタンの大気の成分に影響を与えていることが,世界で初めて明らかになった。最先端の地上望遠鏡による観測と解析技術とを組み合わせることで,天体を直接訪れる探査機にも比肩する科学成果を挙げられることを示した成果となる。
「タイタン」には,地球と同様に窒素を主成分とする大気があり,その大気は地表で1.5気圧という分厚いもの。タイタンの大気中には,地球大気には見られないような複雑な分子ガスが存在していることが分かっていて,これをもとに生命の構成要素であるアミノ酸が生成される可能性すら指摘されている。そのため,タイタンの大気における化学過程の解明は,現代の惑星科学の重要なトピックとなっている。
研究グループは,タイタン大気の高度300kmほどの成層圏にごくわずかに(大気全体の1億分の1ほど)存在する複雑な分子「アセトニトリル(CH3CN)」と,さらにその100分の1ほどしか存在しない「窒素同位体(CH3C15N)」が放つ微弱な電波を,アルマ望遠鏡を用いて同時に検出することに成功した。
検出した電波の特徴を詳しく解析することで,アセトニトリルの窒素同位体の存在量が明らかになる。さらに近年の大気化学シミュレーション研究と比較することで,銀河宇宙線は太陽系の外側ほど強力であり,紫外線よりも低高度まで侵入できる銀河宇宙線が成層圏下部部で窒素分子を破壊して窒素原子を生成し,アセトニトリルの生成につながるということを観測的に初めて示した。
アセトニトリルのような成層圏の下部で生成される分子はこの他にも存在する可能性があり,今後の大気化学シミュレーション研究や,それをもとにした,アルマ望遠鏡などを用いたさらなる観測研究につながることが期待されるという。
さらに,今回のように同位体比を用いて大気の化学過程を考察することは,生成過程が分からない窒素化合物を持つ他の惑星(特に木星,海王星)の大気化学の理解につながる一歩になるとしている。