筑波大学,群馬工業高等専門学校の研究グループは,相転移を示すコバルトプルシャンブルー類似体を配置したビーカーセル型三次電池を試作し,13℃から47℃への昇温で120mV程度の起電力の発生に成功した(ニュースリリース)。
「三次電池」は,どこにでもある室温付近の環境熱で充電される自立分散電源となる。昼夜の温度変化,日向と日陰,衣服の脱着,部屋への出入り,空調のOn/Offなど,地球上のどこにでもある,室温付近数十度の温度変化を電力に変換する「自立」型電源で,設置場所を選ばない「分散」性を有している。
自立分散電源は交換・管理が不要であり,例えば,三次電池をビル内に設置される防犯カメラの電源にすれば,昼夜の空調のOn/Offで充電され,永続的に防犯カメラを駆動し続ける。また,荷物にとりつけるGPSセンサーの電源にすれば,荷物の積み下ろし時の温度変化で充電され,永続的に位置情報を発信し続ける。
研究グループでは,これまで,コバルトプルシャンブルー類似体(Co-PBA)薄膜とマンガンプルシャンブルー類似体(Mn-PBA)薄膜を電極材料としたビーカーセル型三次電池を試作し,その動作を実証してきた。
しかし,13℃から47℃の温度変化で得られる起電力は39mVと小さく,単セルではセンサーを駆動できない。そこで,「物質の酸化還元電位は相転移の前後で不連続に変化するので,相転移物質を電極に使用した三次電池では起電力が増大する」と考え,研究開発を推進してきた。
この研究では,二種対のコバルトプルシャンブルー類似体(NaxCo[Fe(CN)6]0.82およびNaxCo[Fe(CN)6]0.90)薄膜を, 電解析出法でインジウム錫酸化物(ITO)透明電極上に製膜した。膜厚は1μm程度となる。
NaxCo[Fe(CN)6]0.82(NCF82)は,室温直上で低温相から高温相へ相転移する。他方,NaxCo[Fe(CN)6]0.90(NCF90)は低温相のままとなる。あらかじめNCF90とNCF82薄膜をAg/AgCl標準電極に対して1.01Vまで酸化し,ビーカーセル型三次電池を組み上げた。
正極,負極,電解液は,それぞれ,NCF90,NCF82,10mol/LのNaClO4水溶液となる。この三次電池において,13℃から47℃へ昇温することで,120mV 程度の起電力の発生に成功した。
また,47℃で三次電池を放電したところ,2.3mAh/gの電荷量を取り出すことができた。Co-PBAの比熱と潜熱を考慮して,熱効率は0.9%と評価された。これは,理論効率の11%に匹敵する。
今後,高機能な相転移材料を設計・開発することにより,起電力をさらに巨大化できるとしている。