東大ら,超伝導量子ビットによる量子センサー開発

カナダ シャーブルック大学と東京大学の研究グループは,量子コンピューターの基本素子である超伝導量子ビットを用い,新しい量子センサーを開発した(ニュースリリース)。

強磁性体のような巨視的なスピンの揺らぎであるマグノンに関する実験的研究は,検出感度の制限から,マグノンが量子化されていることが顕在化しないような膨大な数のマグノンを対象にしたものだった。

単一光子検出器が開発されたことにより光子1個のレベルで光を観測・制御する量子光学という分野が開花したことに鑑みれば,単一マグノン検出器の開発は,マグノン1個のレベルで磁性体を観測・制御する新しい分野創出の可能性を示唆していた。

これまでに研究グループは,量子コンピュータの基本素子として用いられる超伝導量子ビットとマイクロ波共振器内のマイクロ波光子との間で量子もつれを生成・制御・観測する研究を推進してきた。

この研究を発展させ,2015年に超伝導量子ビットとmmサイズの強磁性結晶試料内のキッテルモードと呼ばれる均一スピン歳差運動モードが,マイクロ波の空洞共振器モードを介してコヒーレントに結合することで生じるエネルギー分裂の観測に成功し,さらに2017年にはマグノンの個数に応じた超伝導量子ビットの共鳴エネルギーの離散的なシフトの観測にも成功していた。

これらの超伝導量子ビットの分光実験を背景に,今回,単一マグノンの存在を超伝導量子ビットの単一試行による読み出しで検出する量子センサーの開発に挑んだ。これまでの分光実験とは異なり,測定対象となるキッテルモード中の単一マグノンに対する超伝導量子ビットの応答感度が最も高くなるように,測定系をマイクロ波パルス列で時間的に制御する必要があった。

その実現には多くの困難が伴ったが,これまでの超伝導量子ビットの時間的な制御実験の知見を活かすことでそれらを克服し,今回の成果に至った。単一マグノン検出の実現は,量子光学分野での単一光子検出器の機能に比肩するという。

この研究で開発した量子センサーは,マグノンがmmサイズの強磁性結晶試料内にたった1個励起している状態を約70%という高い効率で単一試行測定により検出できる。

この研究成果は単一マグノンのレベルで磁性体中の集団スピンを観測・制御する量子的な実験的研究を加速するとともに,応用面では,開発した量子センサーの高感度を活かし,宇宙におけるダークマターの候補の1つであるアクシオンの検出などに使われることも期待されるとしている。

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