理化学研究所(理研),大阪大学,東北大学の研究グループは,放射光マルチビームを用いたX線タイコグラフィ(マルチビームX線タイコグラフィ)の実証に成功した(ニュースリリース)。
部分的コヒーレントな光源である放射光を利用したX線タイコグラフィでは,放射光の利用効率が大きく制限され,X線タイコグラフィの性能向上の妨げとなっていた。
今回,研究グループは,複数の開口を持つスリット(多重スリット)を用いて互いに干渉しないX線マルチビームを形成することで,放射光の利用効率が開口の数に比例して向上し,観察視野が拡大される「マルチビームX線タイコグラフィ」を実証した。
放射光のコヒーレンスを考慮して,多重スリットの個々の開口サイズは,開口を通り抜ける個々のX線ビームが十分なコヒーレンスを得られるサイズにするとともに,開口の間隔は十分離して,X線ビーム間にコヒーレンスが得られないように設計した。
X線マルチビームを一対の全反射集光鏡によってそれぞれ集光することで,各ビームの集光点は試料の位置で,一定間隔離れるようになっている。集光したX線マルチビームを試料に同時照射すると,試料の複数カ所からの回折強度パターンが遠方で形成される。
複数枚の回折強度パターンが重なった1枚の強度パターン(多重回折強度パターン)を二次元X線検出器で取得する。この多重回折強度パターンの取得を試料走査の各点で行ない,多重回折強度パターンのデータセットを構築する。多重回折強度パターンデータセットに対して,全変動正則化を組み込んだ位相回復計算を実行し,マルチビームそれぞれの波動場と試料像を再構成する。
この手法を,単一ビームを用いた従来のX線タイコグラフィと比較したところ,同じ測定時間で広い観察視野が得られることが分かった。
この研究では,放射光マルチビームを用いたX線タイコグラフィの実証に初めて成功した。現状では,位相回復計算の収束性に課題がありビームの数が三つに制限されているが,光学素子として位相モジュレーターを用いることで位相回復計算の収束性を向上させ,ビームの数を10以上に増やすことが可能となる。
今後,部分的にコヒーレントな光源である放射光を用いたマルチビームX線タイコグラフィは,さまざまな試料の広視野・高分解能のイメージングへ応用されることが期待できるとしている。