首都大,光による記憶維持機構をハエに発見

首都大学の研究グループは,ショウジョウバエ(ハエ)が環境光を利用して長期記憶を維持していることを発見し,この「光による記憶維持」の分子メカニズムを明らかにする研究を行なった(ニュースリリース)。

ハエでも過度なストレスによるトラウマ記憶によりオスの性的モチベーションが長期間低下することが知られており,「求愛条件付け」と呼ばれている。

求愛条件付けでは,未交尾のオスを交尾したメスと7時間以上つがわせ,その後オスを明暗サイクル条件下(明期12時間,暗期12時間)で飼育すると,少なくとも5日間以上持続するトラウマ記憶(長期記憶)が確認される。

しかし,7時間学習直後から恒暗条件下で5日間オスを飼育すると,長期記憶が消失していた。さらに,24時間だけ恒暗条件下で飼育しても長期記憶は維持されるものの,48時間続けて恒暗条件下で飼育すると長期記憶が消失することが分かった。

今回発見した「光による長期記憶維持システム」の分子機構を解明するため,光受容タンパク質が発現しているハエ脳内のPDFニューロン,および,PDFニューロンから分泌される神経ペプチドPDF(神経伝達物質の一種)に着目して研究を行なった。

その結果,明暗サイクル条件下においても,PDFの発現を抑制すると長期記憶を維持できなくなることを発見した。また,恒暗条件下でPDFニューロンを人為的に活動させると,長期記憶を維持できるようになったことから,PDFニューロンが長期記憶の維持に必須であることが判明した。

さらに,PDF受容体が働かない変異体においても長期記憶が確認されなかったことから,光によりPDF/PDF受容体を介した情報伝達経路が活性化されて長期記憶が維持されることが分かった。

PDF受容体の活性化は細胞内のcAMP(細胞内の情報伝達にかかわる物質)の濃度を上昇させる。また,転写因子CREBはcAMPの上昇に伴い転写が活性化される。

長期記憶の維持にCREBの転写活性が必要かどうかを明らかにするため,ハエの記憶維持期に,記憶中枢において特異的にCREBの転写を抑制したところ,長期記憶が消失した。この結果は,長期記憶を維持するために転写因子CREBの活性化による新たな遺伝子発現が必要であることを意味しているという。

さらに,ハエ記憶中枢におけるCREBの転写活性を測定したところ,CREB活性が光とPDF受容体により制御されていることも明らかにした。この結果から,環境光によりPDF/PDF受容体/CREB経路が活性化され,その結果ハエの長期記憶が維持されると考えられるという。

今回の研究結果は,将来的にはトラウマ記憶の治療原理の創造や消去技術の開発へと発展することが期待されるとしている。

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