東芝と東北大学の研究グループは,数百GBを超えるデータ量の全ゲノム配列データを,量子暗号通信を用いて伝送することに世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
ゲノムデータのような,大規模かつ秘匿性の高いデータの保管と移送には非常に高いレベルのセキュリティが求められる。これまでのゲノム研究では,大規模なゲノム配列情報を移送するにはキーロック付きのハードディスクをセキュリティボックスに入れて物理的に運搬するなどの方法が採られており,コストや時間が課題となってきた。
量子暗号通信技術は,機密データのバックアップや高い秘匿性が要求される医療データの暗号伝送等への導入が期待されている。一方で,量子暗号通信技術による鍵配信速度は現時点で最大でも10Mb/s程であり,全ゲノム配列データのような大規模で秘匿性の高いデータ伝送の活用には課題があった。
そこで,研究グループは,東芝および東芝欧州研究所傘下のケンブリッジ研究所が開発した高速量子暗号通信技術を用いて,大規模データの効率的な伝送を実現した。大規模かつ秘匿性の高いゲノム解析データを伝送する際,大規模データを一度に伝送するのではなく,次世代シークエンサーのゲノム解析データ出力を量子暗号によって逐次暗号化して伝送する技術を開発した。
これは,次世代シークエンサーが出力するゲノム解析データと,量子暗号装置が出力する暗号鍵を,暗号技術ワンタイムパッドによって逐次暗号化してリアルタイムに伝送を行なう技術となる。次世代シークエンサーの動作に合わせて,逐次データ伝送を行なうことで,大規模な全ゲノム解析データの伝送処理における遅延を短縮する。
研究グループは,この技術を活用し,東芝ライフサイエンス解析センターに設置した次世代シークエンサーを用いて,東北大学東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)までの約7km間に敷設された光ファイバー専用回線を介したデータの伝送実証を行なった。
ToMMoが保有するDNA検体を対象とした,全ゲノム配列解析から出力される全ゲノム配列データを,量子暗号通信によって逐次暗号化・逐次伝送させ,解析処理完了から遅延なく,リアルタイム伝送することができた。
これにより,量子暗号技術が,大規模かつ秘匿性の高いゲノム解析データの暗号伝送に十分に活用でき,実用レベルであることを確認した。