東北大学,大阪大学,京都産業大学,独ケルン大学の研究グループは,トポロジカル絶縁体TlBiSe2上に普通の超伝導体Pb(鉛)の超薄膜を作製し,その電子状態を角度分解光電子分光法で詳しく調べた結果,普通の超伝導体であるPbがトポロジカル超伝導体に変化していることを発見した(ニュースリリース)。
トポロジカル絶縁体の発見を契機にして,その発展物質である「トポロジカル超伝導体」が注目されている。トポロジカル超伝導体では,その表面やエッジ(端)において「マヨラナ粒子」と呼ばれる,量子コンピュータへの応用が期待される特殊な粒子が存在すると予言されている。現在,世界中でトポロジカル超伝導を実現する試みが精力的に行なわれているが,未だ決定的な証拠がない。
今回,研究グループは,同研究グループが2010年に発見したトポロジカル絶縁体であるTlBiSe2に着目し,分子線エピタキシー法を用いて,その表面上に,数nmの厚さをもつPb(鉛)の超伝導薄膜を成長させることに初めて成功した。
角度分解光電子分光法を用いてPb表面のバンド分散を調べた結果,Pb薄膜とトポロジカル絶縁体の界面に埋もれて全く見えないはずのディラック電子表面状態が,Pb表面において明確に観測されることを明らかにした。
このことは,もともとトポロジカル絶縁体の表面に局在していたディラック電子が,Pbとの接合によってPb側に移動することを示している。さらに,Pb薄膜の超伝導転移温度(~絶対温度6ケルビン)以下まで試料を冷却してエネルギー状態を精密に測定したところ,ディラック電子が超伝導になったことを示す「超伝導ギャップ」が明確に観測された。
これらの結果は,これまで不可欠と考えられてきた超伝導近接効果を用いずとも,トポロジカル超伝導が実現できることを強く示唆している。さらにこの結果は,普通の超伝導体としてよく知られるPbの薄膜にトポロジカル絶縁体を接合しただけで,Pbがトポロジカル超伝導体に変換できることを示唆している。
今後,この研究で見出された方法に基づいてトポロジカル超伝導体の探索を進めることで,トポロジカル超伝導体の開発とマヨラナ粒子検出,その先にある量子コンピュータへの応用のための研究がさらに進展することが期待できるとしている。