東北大学の研究グループは,MnTe化合物薄膜が,ジュール加熱やレーザー加熱といった高速加熱による多形変化により,大きな電気的・光学的特性変化(電気抵抗:2桁~3桁変化,光学反射率:~25%変化)を生じる事を見出した(ニュースリリース)。
省エネルギーなメモリ素材の開発において,外場(温度,力,磁場,電場,光など)に対して応答する材料中の相変態を利用した相変化型の材料が,不揮発性メモリやセンサー用材料として注目されている。
材料中で生じる様々な相変態現象の中には,長距離の原子拡散を必要とせず,ある特定の原子面のズレにより結晶構造を変化させる「変位型相変態」と呼ばれる固相から固相への相変態がある。その代表例であるマルテンサイト変態は,鋼,非鉄合金,およびセラミックなど多くの材料において頻繁に観察され,材料の硬化や強靭化,形状記憶特性や弾性熱量効果などを材料に付与する事も可能となる。
変位型相変態のもう一つの特徴として,原子のランダムな拡散を必要としないため,変態に要するエネルギーは小さく,また,その変態速度は非常に速く進行する。例えば,マルテンサイト型の変態は,固体中の音速(〜1000m/s)ほどの速さで生じるという。
今回,研究グループは,結晶多形化合物であるMnTeに着目し,変位型相変態に伴って大きな電気的および光学的物性変化が得られる事を見出した。特に,MnTe多結晶薄膜は10ns程度の高速ジュール加熱により可逆的な抵抗スイッチング現象(相変態により二桁以上の抵抗変化を示す)を示し,また,ランダムな原子拡散を必要としないため,相変態に必要なエネルギーは極めて小さい特長を持つ。
現在,Ge-Sb-Te薄膜のアモルファス相/結晶相の相変化に伴う抵抗変化を利用した不揮発性相変化メモリが注目されているが,それらメモリに対し,動作エネルギーを1/20程度まで低減できる事を実証した。
更に,MnTe膜の光反射率がレーザー加熱によっても可逆的に変化することも分かった。透過型電子顕微鏡による原子像観察の結果から,電気的および光学的物性変化はいずれもNiAs型構造からウルツ鉱型構造への変位型相変態による多形変化によって生じている事が明らかとなり,また,その変態は熱応力(熱ひずみ)により誘起されることが示唆されるという。
このMnTe結晶多形薄膜は,一般的なスパッタリング技術によって作製可能であり,超省エネルギーかつ超高速動作を可能とするデータストレージ用の不揮発性相変化メモリだけでなく,相変化型のフォトニックメモリやナノディスプレー等のメモリ層として,また,電気的および光学的なセンサー材料としても大いに期待できるという。
今後は,変位型相変態に及ぼす応力(ひずみ)の影響やその動作メカニズム,また,相変態の耐久性について明らかにしていくとしている。