北海道大学の研究グループは,哺乳類の単一の神経細胞を物理的に隔離して長期間培養し,リズムを可視化する手法を確立し,概日リズムの中枢領域である視交叉上核の神経細胞は1個のみでも安定した概日リズムを刻むこと,また,脳組織を構成するグリア細胞が神経細胞の概日リズムを不安定化させることを発見した(ニュースリリース)。
哺乳類の約24時間のリズムを刻む仕組みである概日リズムの中枢は,脳深部に位置する視床下部領域の視交叉上核に存在している。視交叉上核はおよそ2万個の神経細胞から構成され,目からの直接の神経投射をうけて視交叉上核の固有の周期を24時間に調節し,全身の細胞や臓器に統一のとれたリズム情報として出力している。
これまでの研究では,視交叉上核はネットワークを形成して互いに強固に連絡しあうことで安定した概日リズムを刻むこと,また他の神経細胞と弱い連絡しかもたない条件では多くの神経細胞でリズムが消失することが報告されていた。
このことから,視交叉上核が安定した概日リズムを生み出すためには,神経細胞同士が連絡しあうことが重要であると考えられてきた。しかし,他の細胞と一切物理的な接触をもたない1個の神経細胞を培養して測定することは技術的に難しく,単一の神経細胞が示すリズムの性質については研究者の間で統一した見解は得られていなかった。
研究グループはこれまで,概日リズム観察のための長期間の光イメージング計測法を確立し,視交叉上核の神経細胞ネットワークの働きを観察してきた。今回の研究では,1個の神経細胞のみを物理的に隔離して培養できる培養皿を作成した。
視交叉上核の1個の神経細胞を培養し,高感度カメラ,恒温培養装置,顕微鏡からなる光計測システムにより,時計遺伝子発現と細胞内カルシウム濃度を指標とし,神経細胞の概日リズムを数日間測定することを試みた。
視交叉上核の独立した1個の神経細胞のみで長期培養をおこない概日リズムを測定したところ,視交叉上核の単一の神経細胞は,他の神経細胞やグリア細胞と物理的接触(シナプス結合やギャップ結合)が一切ない状態においても,安定した時計遺伝子と細胞内カルシウムの概日リズムを示す事が明らかとなった。
一方で,グリア細胞と共存している1個の神経細胞のカルシウム概日リズムは,多くで概日リズムが見られなくなることも明らかとなった。
今回の研究成果は,単一神経細胞における概日リズムの有無の問題に終止符を打つとともに,細胞やネットワークレベルでの概日リズム生成の基本メカニズムの全容解明に寄与するものだという。さらに新たに開発した計測法は,概日リズムを調節する薬剤の高速評価系への応用など創薬にも寄与が期待されるとしている。