浜松医大,質量顕微鏡解析の自動化に道

浜松医科大学は,機械学習を利用した質量顕微鏡解析の自動化法を開発し,この手法を用いて小脳に限局した分布を持つ分子集団を発見することに成功した(ニュースリリース)。

レーザーを用いる質量顕微鏡法は質量分析を応用した解析法の一種であり,多数の生体分子に関して組織や細胞でそれぞれどのような分布を示すかを,一度の測定で解析できる。

これまでの測定は飛行時間型質量顕微鏡装置を用いた,観察する分子をあらかじめ決めておく解析(ターゲット解析)が主流で,一度に測定できる分子の分布も数十個程度と,手動および目視による解析も可能だった。

しかし,近年利用が進みつつあるフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量顕微鏡装置(FT-ICR-IMS)を用いた解析では,一度に1000を超える分子の分布が観察できるため手動や目視による解析は困難で,このデータ解析が測定全体のボトルネックとなっていた。

研究グループは,まずFT-ICR-IMSを用いて,ラット脳の矢状断(縦切り断面)における約500個の生体分子の分布データを取得した。このデータに対して,教師無しの機械学習である主成分分析を行ない,ラット脳の生体分子の多くが灰白質または白質のいずれかに特異的な分布を示すことが明らかになった。

この結果は,生体分子の分布データを事前に選別しなくても,灰白質または白質といった脳の解剖学的な構造を自動的に再構築できたことを示している。

さらに,同じデータに対して階層クラスタリングを用いて脳の生体分子の分布パターンを約10種類に大別し,その中には灰白質や白質に特異的な分子の分布だけではなく、新たに小脳灰白質のみに分布するリン脂質の分子集団も発見することができた。

この結果は,階層クラスタリングの解析により自動的かつ機械的に分布パターンを分類でき,さらにこれまでに知られていない分布を示す分子集団を発見できる可能性を示すものだという。

今回の研究成果は,FT-ICR-IMSを用いた測定により取得される膨大な生体分子の分布データを,機械学習により自動的・機械的・迅速に解析できることを示しており,機械学習は質量顕微鏡による解析のボトルネックを解消できることを強く示唆するもの。

また,従来の目視による主観的な判断によるところが大きかった質量顕微鏡の解析を,機械学習を用いてより客観的・ノンバイアスな解析手法へと昇華できることが期待されるという。

これにより,より早くより多くの病変組織を質量顕微鏡で解析することが可能になり,さらに,これまでは検出が困難であった未知の病因分子の発見にもつながることが期待されるとしている。

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