分子科学研究所の研究グループは,有機太陽電池の電圧損失を高効率無機太陽電池と同等の水準まで大幅に抑制することに成功した(ニュースリリース)。
近年,有機太陽電池の光電変換効率は最高で16%程度まで向上したが,高効率無機太陽電池の28%などと比較すると大幅に劣る。現状で有機太陽電池の効率が高効率な無機太陽電池に及ばないのは,吸収した光のエネルギーと得られる電圧値との差,電圧損失が大きいことが最大の原因となる。
有機太陽電池の電圧損失を抑制するためには,再結合エネルギー損失を抑制することが重要となる。無機太陽電池はこの再結合損失の抑制が達成されてきたが,有機太陽電池では有効な方策は示されていなかった。
有機太陽電池は2種類の有機半導体材料(ドナー/アクセプター)の界面で発電が起きる。今回研究グループは,その材料として,有機トランジスタの分野で主に用いられてきた移動度の高いドナー/アクセプター材料を用いた。さらにアクセプター材料のアルキル側鎖の長さを変化させることで,材料の界面近傍での結晶性を変化させた。
それら材料を用いた2層型の積層構造の太陽電池を作製したところ,アクセプター材料の結晶性が向上するにつれて,有機太陽電池の開放端電圧値が向上し,1Vもの高い値が得られた。
さらにドナー/アクセプター界面から離れた領域には結晶性の低い材料を用いて,界面近傍にのみ結晶性の高い材料を積層しその厚みを次第に薄くしていくと,6nm以上で同様に高い電圧値が得られた。
1つの分子の長さが約2nmなので,高い電圧値を得るためには,発電が起こるドナー/アクセプター界面近傍の3分子層以下の非常に薄い領域の結晶性が重要ということがわかった。
研究グループは,これらの有機太陽電池の電圧損失を定量化するために,低温での開放端電圧を測定した。その結果,最も結晶性の高い分子を用いた場合で0.26Vまで減少した。これまで有機太陽電池の再結合損失は約0.5V以上あると報告され,この損失は高効率無機太陽電池と同等となる。
またこれらの太陽電池の再結合過程の詳細な分析から,電圧損失が大幅に抑制されたのは,界面近傍の結晶性が向上したことにより,トラップ再結合などの余分な再結合が抑制され,理想的な自由電荷対同士の再結合が実現されたためだという。
研究グループは,今後,有機太陽電池でも,新たな材料開発により同様に界面近傍の結晶性を制御できれば,有機太陽電池の光電変換効率を大幅に向上できるとしている。