東京大学は,大規模なゼオライト合成のデータベースを構築し,材料合成条件の類似性と,結晶化した材料の構造の類似性との間に関連性があることを導き出した(ニュースリリース)。
材料は与えられた条件下で,熱力学的に最小のエネルギーをもつもの(安定相)として得られる場合と,それよりもエネルギーの高い準安定相として得られる場合とに大別される。
理論計算によって,何が安定相であるかは説明できるが,物質の拡散や界面のエネルギーなどの影響下,速度論的な要因で生成する準安定相を,実験せずに予測する理論的枠組みは未だ無く,準安定相として合成される代表的な結晶群であるゼオライトなどを「設計的合成」するのは困難とされてきた。
今回研究グループは,勾配ブースティング法と決定木という2つの機械学習アルゴリズムを用いて,686例に及ぶ実験データを分析することで,ゼオライト合成の化学空間が,結晶構造の類似性を強く反映する領域と,そうではない領域に大別できることを示した。
結晶構造の類似性とは,結晶を原子同士が繋がったネットワークとみなしたときに,そのネットワーク間に共通したパターンがどの程度見られるかという指標。
研究グループは既に,出発物質中に目的とするゼオライトと共通した構造のパターンを持つゼオライトをあらかじめ少量加えることで,結晶化を促進することを見出しているが,これらは今回見出した,結晶構造の類似性を強く反映する領域におけるものだった。
一方で,結晶構造の類似性を反映しない領域では,生成物は速度論的な要因の影響を大きく受け,わずかな合成条件の違いにより生成物が大きく変化するという実験的事実と符合することがわかった。
また,勾配ブースティング法と決定木という2つの機械学習アルゴリズムを用いて実験データを分析することで,ゼオライトを合成する際に,重要度の高い合成条件を抽出することに成功した。これらの結果は,ゼオライト合成の詳細を理解する上で大きな意味を持つものと考えられるという。
さらに,導出された結晶構造の類似性を用いて,実在するゼオライトの結晶構造全てを含む「類似性ネットワーク」を構築した。ここでは,互いに似た結晶構造を有するゼオライトを結びつけて可視化し,これを手がかりに,新しい合成条件の設計と合成が可能になる。
実際に研究では,この「類似性ネットワーク」を用いて,今まで知られていなかった異なる型のゼオライト間の類似性を見出すとともに,機械学習で特定された結晶構造の類似性を強く反映する領域にて合成を行なうことで,EUO型ゼオライトの新しい合成法を見出した。
この研究のアプローチは,ゼオライトに限らず,新しい物質を発見するためのあらゆる合成システムに適用することが可能。そのため,これまで理解が困難であった,準安定相として得られる材料の合成の理解に広く貢献するとしている。