沖縄科学技術大学院大学(OIST),中国上海交通大学,スイス工科大学の研究グループは,太陽電池素材のシリコン材料に代わる,効率的に電気を生み出す,安定性のある新素材を発見した(ニュースリリース)。
シリコンは安定性があり,価格も安く,太陽エネルギーを電気へ変換する変換効率も優れている。新素材はこれらの点において,シリコンよりもさらに優れてかつ低コストでなければならない。
今回研究したCsPbI3は無機ペロブスカイトの一種で,高効率で低コストであるため,太陽電池開発の世界で人気を集めている材料。これまでアルファ相または,黒色のためダーク相としても知られる結晶構造について研究されることが多かった。
このダーク相は,太陽光を吸収するのに特に優れている。ただし,この構造は不安定で,黄色味を帯びた材料に急速に劣化してしまい,日光を吸収する能力が落ちてしまう欠点があった。
今回の研究では,あまり知られていないベータ相における可能性を探った。ベータ相は,アルファ相よりも安定した構造を持っているが,アルファ相と比較すると電力変換効率が低いという難点があった。
この効率の低さは,薄膜太陽電池によく生じてしまうひびによる影響が原因の一部となっている。ひびが太陽電池の隣接する層への電子損失を引き起こすと,電子はもはや電気として流れることができない。
研究グループはこれらのひびを修復するため,ヨウ化コリン溶液で材料処理を施した。この処理によってエネルギーレベル・アラインメントとして知られている太陽電池の層間の界面を最適化することができたという。
さらに研究グループは,紫外線光電子分光法を使用し,CsPbI3と隣接する層との間のエネルギーレベル・アラインメントを調べた。収集されたデータで,電子がどのようにしてさまざまな層を自由に移動し,電気を生成できるかを示した。
その結果,ヨウ化コリンで処理した後は,層の間のエネルギーレベル・アラインメントが良好になったため,隣接層への電子の損失が少ないことがわかった。自然に発生するひびを修復するこの処理は,15%から18%への変換効率の増加をもたらした。
今回の研究により,CsPbI3が業界をリードする素材と競合できることを示すことができたとする。この結果を踏まえ,研究グループは今後,材料の安定性を向上させ,商業的見通しを立てるとしている。