京都大学,日本大学,米ミズーリ大学,韓国の高麗大学校の研究グループは,反強磁性的な磁化結合をもつフェリ磁性体の磁壁に対して,電流と磁化の相互作用であるスピン移行トルクが与える効果を実験および理論の両面から解明した(ニュースリリース)。
近年,高速動作可能な磁壁メモリーを実現するうえで,反強磁性体が有力な材料候補として精力的に研究されている。しかし,反強磁性体は自発磁化を持たないことから外部磁場による磁化制御が困難なため,反強磁性体の磁壁に作用するスピン移行トルクを実験的に調べた報告はこれまでなかった。
フェリ磁性体は,反強磁性的に結合した磁化をもちながら正味の自発磁化を有する物質で,反強磁性磁化ダイナミクスを実験的に調査することができる。今回の研究ではフェリ磁性体に着目し,フェリ磁性金属GdFeCoの磁壁に対してスピン移行トルクが与える効果を実験および理論の両面から調査した。
フェリ磁性体の磁壁移動速度をさまざまな温度で測定した結果,スピン移行トルクに起因する磁壁速度が,角運動量補償温度の近傍で符号反転することが明らかになった。さらに,フェリ磁性体における磁壁速度の理論式を導出して実験データを解析した結果,角運動量補償温度に対してスピン移行トルクの断熱成分が反対称,非断熱成分が対称な温度依存性を示すことがわかった。
この結果は,磁壁移動速度に占めるスピン移行トルクの非断熱成分が角運動量補償温度で大きくなることを示し,角運動量補償温度ではフェリ磁性体が反強磁性体と同様の磁化ダイナミクスを示すことから,この実験結果は反強磁性体の磁壁に大きな非断熱スピン移行トルクが働くことを意味しているという。
研究グループは今回の研究によって,電流を流した際にはたらくスピン移行トルクによって磁壁の位置を制御する事を基本動作とする,次世代型磁気メモリとして期待されている反強磁性材料を用いた磁壁レーストラックメモリーの実現を目指した研究がさらに活発になるとしている。