東京農工大学と筑波大学の研究グループは,レーザー光の持つ波形をフェムト秒単位で正確に制御する技術を駆使し,半導体中の電子の持つ微小な磁石の方向を操作する新しい方法を発見した(ニュースリリース)。
電子はマイナスの電荷を持つことが知られ,電気力で運動の様子を変えることができる。同時に,個々の電子は微小な磁石としての性質も持ち,磁気力でその微小な磁石の向きを変えたりすることもできる。
通常は電子の持つ微小な磁石の向きを操作しようとする場合,外部から大掛かりな磁石を用いて電子を含んだ物質全体に静磁場をかける。
研究グループは静磁場を一切用いずに,「光」がもつ電場だけを用いて電子の持つ微小な磁石の向きを揃えるというテーマに挑戦してきた。
研究グループの技術は,レーザー光の持つ電場の向きと大きさをフェムト秒単位で正確に制御することができる。この技術を用いて「ねじれ偏光パルス」という振動する電場がねじれていくような特徴的な光を作った。
物質の中の電子はさまざまなエネルギーの状態を持つが,研究グループの光制御技術を用いると特に半導体中を流れる電子のような低いエネルギー差に電場の振動を合わせた光を作ることが可能となる。
さらに物質中の電子が受け取りやすいエネルギーの値に合わせながら,ねじれた光の持つ回転力を電子に及ぼすことで,個々の電子の持つ微小な磁石の向きを一斉にそろえることができる。
研究グループは光で半導体量子井戸構造中を伝導する電子を操作した。この半導体量子井戸構造では,電子は2次元面内に運動が限定され,その際,異なる磁石の向き(スピン)を持つ電子はそれぞれ異なる方向に流れるような仕組みが施されている。
従って光によって磁石の向きが反転させられた場合には,電流の向きも逆転し,その結果,半導体構造に設置された電極間に生じる電圧に変化が生じる。
実際にねじれ偏光パルスを半導体中の電子に照射すると,電子の持つ微小な磁石の向きが揃えられ,狙った方向に電子が移動する様子が確認できた。
ねじれの周波数が電子の持つ周波数差である50THzに近づくほど,照射する光のねじれる方向に応じて電子の持つ磁石の向きが反転し,電子の進む方向が反転する様子を捉えることに成功したという。
この技術は,位置,エネルギー,運動方向,磁石の向き,すなわち電子の持つ全ての物理的自由度が制御可能できる。研究グループは光だけを用いて電子のスピンを操作する技術は,光の新たな活用法として光科学,物性科学,電子機器,光関連機器などの広い範囲にわたる発展に寄与するとしている。