大阪大学は,レーザー航跡場加速のGeV級電子ビームをドライバーとする卓上サイズの短波長領域の自由電子レーザーや放射光装置を実現することを目標に掲げ,研究開発を開始した(ニュースリリース)。
今日の科学技術,産業,医療の発展に大きく貢献している粒子加速器は膨大な資金と立地が必要とされ,小型化への要求は高い。一方,加速電場強度が従来の高周波加速器の1000倍をも越える「レーザー航跡場電子加速」は,原理的にGeV(ギガ電子ボルト)級の超高エネルギー加速器でさえも卓上サイズで実現できると期待されている。
これまでのレーザー航跡場電子加速研究でGeV級の超高エネルギー加速の原理実証は既に達成されているが,ビームの安定性/再現性,品質,制御性等は,その加速媒質となるプラズマの制御の難しさから従来の加速器に遠く及ばず,喫緊の課題となっている。
大阪大学は,これまでにプラズママイクロオプティクス(PMO)と呼ばれる光学レンズや光ファイバーの機能を持つプラズマ素子を開発し,高強度レーザーパルスの伝播の安定化とともにレーザー航跡場から発生する電子ビームの品質と安定性を飛躍的に向上させている。
PMOの登場によってレーザー航跡場加速の電子ビームの位置安定性が向上し,従来加速器で使用されているビームオプティクスでのビームハンドリングや制御が可能になるなどの画期的な成果が達成されている。
同大は今回,JST未来社会創造事業「粒子加速器の革新的な小型化及び高エネルギー化につながるレーザープラズマ加速技術」におけるレーザー駆動電子加速技術開発において,これらの技術課題を解決し,レーザー航跡場加速のGeV級電子ビームをドライバーとする卓上サイズの短波長領域の自由電子レーザーや放射光装置の開発を目指す。
この研究では,将来の高エネルギー量子ビームによるイノベーションの創出を担う基幹技術としてレーザープラズマ加速を位置付け,実用加速器に必要とされる基盤技術の開発と,その実現の可能性を実証する。
卓上サイズのX線自由電子レーザー(XFEL)を実現するために必要な電子ビームの発生可能とするレーザープラズマ電子加速技術,大電荷量でエネルギー幅1%以下の極短電子バンチを生成する入射器モジュール,大電荷量の極短電子バンチを高効率で安定に加速する加速ブースターモジュール,精密かつ正確に電子ビームとプラズマの加速場を精密かつ正確に同期するタイミングシステムを開発する。
最終目標としてkeVのX線領域でレーザー増幅が視野に入る電子ビームの安定生成を目指す。また,開発途中で得られるレーザープラズマ加速技術および周辺技術等の革新的技術は積極的に医療応用,材料科学への応用等へ展開していくとしている。