弘前大ら,BTBの色構造をケモメトリックスで決定

弘前大学と京都大学の研究グループは,代表的な酸塩基指示薬であるチモールブルー(TB)およびブロモチモールブルー(BTB)の液性(酸性・中性・アルカリ性)に応じた分子構造の決定に成功した(ニュースリリース)。

TBが水に溶けたTB溶液は,酸性のとき赤色,中性では黄色,アルカリ性においては青色を示すとされている。また,TB分子中の水素2つが臭素に置き変わったBTB分子は,溶液が酸性のとき黄色,中性では緑色,アルカリ性においては青色を示すとされている。

これらの酸塩基指示薬については,初等・中等教育の理科および化学において学習する。とくにBTB溶液は,小学校6年生,中学校1年生・3年生の理科教科書に実験項目としての記載もあり,多くの人にとってなじみのある酸塩基指示薬の一つ。

このため,BTB溶液の色と液性の関係は広く知られている。ところが,TB溶液も含め,これらの溶液が示すそれぞれの色がTBやBTB分子のどのような構造に由来しているのかに関しては,これまで混乱がみられ明確ではなかった。

研究では可視吸収分光法および量子化学計算を用いることで,それぞれの色に対応した分子構造を決定することに成功した。得られた可視吸収スペクトルをケモメトリックスの手法を用いて解析することで,色変化に関与する分子種の数の決定と酸解離定数の決定を行なった。

その結果,TB溶液で知られる3色の色変化は3種類の分子が関与しているのに対し,BTB溶液で知られる3色の色変化は2種類の分子のみが関与していることを明らかにした。中性で緑色を示すBTB分子は存在せず,BTB溶液が示す緑色は,黄色を示すBTB分子と青色を示すBTB分子との混合により現われている色であることを確認した。

また,ケモメトリックス法により決定した酸解離定数のイオン強度依存性を利用することで,候補となるTBおよび
BTB分子構造の絞込みを行なった。絞り込んだ構造に対する量子化学計算と科学的な考察により,それぞれの色を示す分子構造の最終的な決定を行なった。

また,決定した構造の確からしさを確認するため,量子化学計算による可視吸収スペクトルのシミュレーション
も行ない,実験で得られたスペクトルを定性的に再現する結果を得た。

この成果は,学校教育で使用される教科書に記載されるほど広く知られた内容でさえも,完全には解明されていない部分を含むことを示すもので,アメリカの7割の大学で採用される代表的な分析化学教科書の内容を書き換えるものでもあるという。

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