東北大学と高輝度光科学研究センターの研究グループは,生体適合性材料の双性イオン分子において,弱いファンデルワールス力の発現をテラヘルツ光と大型放射光施設SPring-8の高輝度放射光を用いた測定と高精度第一原理計算による理論解析をもとに明らかにした(ニュースリリース)。
生体適合性材料である双性イオン分子は,温度や圧力などの環境に敏感で,室温程度のエネルギーで容易に影響を受けるごく弱いファンデルワールス力が,これらの特性をつかさどっている。ファンデルワールス相互作用の検出には,振動吸収分光が有力な手段で,特にテラヘルツ振動分光はごく弱い相互作用の検出に有力となる。
研究グループは,生体適合性材料の双性イオン分子である非晶質スルフォベタインモノマーについて,弱い水素結合検出に有用なテラヘルツ光と,微量試料の測定に有効な高輝度放射光を用いて,低温にして熱運動を抑制することで,ファンデルワールス極限の水素結合形成を観測することに成功した。
テラヘルツ分光研究は近年急速に進歩し,結晶試料については,シグナルの検出と理論計算によるピーク同定が確立されつつある。しかし,非晶質試料については,シグナルが弱いことに加え,気相とも結晶とも違う系であるため,理論的にも実験的にも研究が立ち遅れていた。
また,双性イオン分子の測定では,KBr塩などの充填剤との相互作用も懸念される。生体内では結晶試料より非晶質試料がより多い構造で,非晶質状態での情報が必要とされている。
今回研究グループは,充填剤を使わずに測定し,テラヘルツ領域と高輝度放射光による遠赤外領域での温度依存のシグナルを得ることができた。また,理論解析には,周囲の分子の影響を誘電率で取り込み,温度の効果を誘電率の変化に置き換えることで,観測された温度依存のスペクトル変化をあいまいさなく解析したという。
研究グループは今回の研究により,今後,高精度第一原理計算と組み合わせて,弱い分子間および分子内の相互作用の研究がさらに加速されると期待でき,温度,圧力などの環境に感受性を持つ生体適合性材料のデザインに新たな機軸を提供するものとしている。