新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO),三菱電機,産業技術総合研究所は,高い熱伝導率を持つ単結晶ダイヤモンドを放熱基板に用いたマルチセル構造の窒化ガリウム高電子移動度トランジスタ(GaN-HEMT)を世界で初めて開発した(ニュースリリース)。
近年,移動体通信基地局や衛星通信システムの高周波電力増幅器には,小型・軽量化や効率化などのため,高出力で高効率な窒化ガリウム高電子移動度トランジスタ(GaN-HEMT)の適用が拡大している。一方,GaN-HEMTには高出力動作時の発熱により電流が流れにくくなるといった課題があり,本来のGaN-HEMTが持つ性能を発揮できていなかった。
今回3者は放熱基板として高い熱伝導率を持つ単結晶ダイヤモンドに直接接合することで,高出力・高効率化を実現したマルチセル構造のGaN-HEMTを開発した。
具体的には,シリコン基板を用いて作製したマルチセル構造のGaN-HEMTからシリコン基板を除去し,GaN-HEMTの裏面を研磨して薄く平坦に加工した後で,ナノ表面改質層を介した直接接合法によってダイヤモンド基板と接合した。今回は,8つのトランジスタセルを並列に組み合わせたマルチセル構造を採用した。放熱性の高い単結晶ダイヤモンドを放熱基板に用いて,マルチセル構造のGaN-HEMTを作製したことは世界初という。
また今回,単結晶ダイヤモンド(熱伝導率約1900W/m・K)を基板に用いて放熱性を高め,GaN-HEMTの高温化による性能や信頼性の低下を抑制することに成功した。これにより,シリコン基板を放熱機材に用いた場合と比較して,GaN-HEMTの最大温度を211.1℃から35.7℃に低減でき,トランジスタ当たりの出力が2.8W/mmから3.1W/mmに増加,電力効率が55.6%から65.2%に向上した。
研究グループは,今回開発したGaN-HEMTを搭載することにより,高周波電力増幅器の出力密度・電力効率が向上し,移動体通信基地局や衛星通信システムなどの低消費電力化に貢献するとしている。