東京農工大学の研究グループは,食用とならず,その多くが廃棄物処分となるカシューナッツの殻より得られる天然植物油(カシューオイル)から,材料形成時に環境や人体に有害なホルムアルデヒドや重金属触媒などの化合物を使用しないバイオベースポリマーを開発した(ニュースリリース)。
昨今の地球規模の環境問題である地球温暖化や化石燃料の枯渇の懸念,さらにはマイクロプラスチック汚染問題から,持続可能社会の実現に向けた低炭素社会,バイオマスとの共存が求められている。特に,有限な化石資源に依存しない地球環境にやさしいカーボンニュートラルかつ再生可能な非可食バイオマスの高度有効利用に大きな期待が寄せられている。
研究ではカシューナッツ産業から発生する非可食・廃棄バイオマスであるナッツ殻から得られるカシューオイルに着目し,アリル化,チオール・エン反応を利用した光重合による,室温で形成可能なバイオベースポリマーを開発した。
開発したポリマーは,350°C付近まで熱的に安定であり,柔軟性(フレキシブル性)に富む。さらに従来のカシュー製品は,原料の特性(着色)により無色透明化が難しく,また経時による物性変化が大きい,といった課題があったが,今回,光学的に無色透明な材料の形成に成功し,さらに経時変化も大幅に抑制できることがわかったという。
この未利用廃棄バイオマスを原料とする環境調和型バイオベースポリマーは,従来のカシュー製品にはないホルムアルデヒドフリー,重金属触媒フリー,有機溶剤フリーで,かつ室温で容易に材料形成できる。
また,光学的透明性,柔軟性,耐熱性,速乾性を有していることから,これまでにまだ検討されていないさまざまな分野における活用や,新規材料開発への展開も期待でき,未利用廃棄バイオマスであるカシューナッツの殻の有効利用方法として非常に有効だとする。
研究グループは今後,さらなる高機能化だけでなく,これまでの一連の研究成果を活かした,未利用バイオマスを豊富に有する新興国との未利用バイオマスの高度有効利用に関する国際共同研究コンソーシアムの形成に注力していく。
研究は,この国際コンソーシアムを拠点として,地球規模の環境問題(地球温暖化,化石資源の枯渇化,マイクロプラスチック汚染)の緩和対策だけでなく,新興国地域での新規バイオマス事業の創出を通した科学技術・経済支援にも展開していくとしている。