九州大学の研究グループは,有機発光層を金属ハライドペロブスカイト層で挟んだ有機ELを開発した(ニュースリリース)。
電気エネルギーを光に効率良く変換する有機ELは,ディスプレーや照明などの実用化が進んでいる。有機分子は高い発光量子収率を示す優れた発光体だが,電気を流しにくいという性質を持つ。このため,有機ELには100nm程度の薄い有機膜を用いて,電気を強制的に流す必要があった。このような極めて薄い有機膜は大面積で均一に形成させることが難しい。
今回の研究では,有機発光層として高い発光効率を示すイリジウム化合物や熱活性化遅延蛍光化合物(一重項励起状態と三重項励起状態のエネルギーギャップが小さくなるように設計されており,通常は発光しない三重項励起状態が一重項励起状態に変換され,遅延蛍光として観測することができる。イリジウムなどレアメタルは含まれていないが,電気エネルギーの全てを発光に変換することができる)を用いた。その両端に,電気を流しやすく透明な金属ハライドペロブスカイト層を設置した。
ペロブスカイトの電気を流しやすい性質と簡単に薄膜化できるという性質を利用して,有機EL中のペロブスカイトの総膜厚を2,000nmに増加させた。従来の有機ELよりも10倍以上厚いにもかかわらず,最大で40%の極めて高い外部量子効率が得られたという。
また,ペロブスカイト層の膜厚を調整することにより,発光スペクトルの角度依存性を完全に消失させることに成功した。斜めから見ても色味が変化しない高性能ディスプレーを作製するために必要不可欠な技術となる。
研究グループは,この研究を活用すれば有機EL製品を安価に再現性よく作製できるようになり,また,レーザー,メモリー,センサーなどの有機デバイスに応用することも可能としている。