千葉大学の研究グループの開発した新型検出器「D-Egg」が,ニュートリノ観測施設「IceCube(アイスキューブ)」実験のアップグレードに採用された(ニュースリリース)
南極点の広大な氷河を用いて素粒子ニュートリノを検出する実験,IceCubeのアップグレード計画が始動する。このアップグレードで使用される検出器は,世界各国の研究者により製造からファームウェアの開発まで行なわれている。南極点の氷河下に埋め込まれた既存の5,160個の検出器に,700個を超える新しい強化光検出器が追加される。
このうち300個に,研究グループが開発した検出器が採用される。他の400個は,ドイツ及びアメリカの複数のチームが共同開発した「mDOM」検出器が使われる。
この光検出器は,卵のような形をしたデュアル光学センサー。現行の検出器「DOM」よりも30%小さく,紫外線透過性の高い耐圧ガラスで作られた卵型容器には,2つの光電子増倍管が上向きと下向きにそれぞれ収納されている。光子検出有効面積がこれまでの2倍となったことで,ニュートリノ相互作用から発生するチェレンコフ光の測定精度を向上させることが期待できるという。
今回,400気圧以上の氷中の気圧に耐えられるガラスは岡本硝子製を採用。また,光検出器の要ともいえる光電子増倍管は,浜松ホトニクスにより製造された。
また,この検出器のために新たに設計されたLED発光装置は,氷河の中の光学特性のより正確な解析を可能とし,宇宙から飛来するニュートリノの到着方向の分解能向上に大きく貢献することが見込まれている。
今回のアップグレードでは,アイスキューブのDOMの設置場所に比べ,D-Eggをより密接に配置する。これにより今まで正確な検出が難しかった低いエネルギーのニュートリノからの弱い信号を検出することができるようになり,検出可能なニュートリノのエネルギーの範囲が広がる。また,検出器同士の距離が短くなることで,氷の性質を正確に見極めることが可能になる。
光が氷中を通り抜ける際の屈折率を正確に把握することにより,ニュートリノの到来方向推定の精度向上が可能になり,宇宙探索の精度が格段に高くなるという。なお,このアップグレードは2022年12月より第1段階として建設開始,2023年1月を完成予定としている。