新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と光電子融合基盤技術研究所(PETRA),沖電気工業は,光通信ネットワークに用いられる光トランシーバー向けに世界最小のTWDM-PON用光受信チップを開発し,受信動作を実証した(ニュースリリース)。
ミリ波近傍の電波を用いる5Gネットワークの構築には,スモールセルと呼ばれる小さなエリアごとに基地局を設置する必要がある。このようなネットワークの構築には,既存の光アクセスネットワークにパッシブ光ネットワーク(PON)の構成を用いてスモールセル基地局を追加する方法が考えられる。
5Gネットワーク向けを想定したTWDM-PONに用いる光受信装置には,多くの光学部品や受光素子を個別に組み合わせて構成することが必要なため,これまではスモールセル基地局に内蔵できる小さな光受信モジュールを作ることは困難だった。
開発した光受信チップは,新たに開発した偏波分離回転素子や光波長フィルターとしてのアレイ導波路型回折格子,ゲルマニウムフォトダイオードアレイなどの光素子で構成されている。シリコンフォトニクスの技術を用いて,これらの光素子をチップ上に集積し,さらに光導波路で接続することによって,5mm角以下という超小型化に成功した。
また,光ファイバーを経由したランダムな偏波状態の光信号でも安定して受信できる偏波無依存受信動作を実現するために,波長多重化された光信号を2つの偏波成分に分離したのち4つの波長成分に分離し,波長ごとに偏波成分を合波する光回路を開発した。
このチップを光ファイバーコネクター付きプロトタイプモジュールに実装して,ランダムな偏波状態の10Gb/sの光信号を,1本の光ファイバーを経由して4つの異なる波長に切り替えて入力することにより,合計40Gb/sの偏波無依存受信が可能であることを実証した。同じ機能を持つ光受信モジュールを従来のように個別部品を組み合わせて構成すると数cm角のサイズになるが,このチップを用いることにより,光受信モジュールの体積を従来比1/100以下に縮小することが可能になったという。
今後研究グループは,光受信チップをさらに高感度化するとともに,光送信機能も集積することにより,5Gネットワークのスモールセル基地局装置に内蔵できる超小型で超低消費電力の光トランシーバーの開発に取り組んでいく予定。また,波長多重光受信チップが小型である特長を活かし,光学分析などの微小センサーへの応用展開も進めていくとしている。