大阪大学の研究グループは,外からの光照射により,微生物の中枢代謝(細胞内に取り込んだ糖を分解し,その過程でエネルギーを獲得する機構)の流れ(代謝経路における個々の化学反応の反応速度)を自在にコントロールする技術を世界で初めて開発した(ニュースリリース)。
大腸菌などの工業微生物を利用して,燃料アルコールや生分解性プラスチック原料などのさまざまな有用化合物が生産されている。その際に,原料の糖は代謝経路という多数の化学反応を経て目的物質に変換される。
代謝経路には複数の分岐点があるため,原料から目的物質への変換効率を高めるには,それぞれの分岐点における代謝の流れの割合を最適化する必要がある。
これまで培養液に薬剤を加えると特定の遺伝子の発現を誘導することはできたが,オン‐オフを繰り返しながら動的に中枢代謝の流れを制御する技術はなかった。
そこで研究グループは,光合成生物などが有する光照射による遺伝子発現制御の仕組みに着目し,この分子装置をもともとは光による制御を持たない工業微生物の大腸菌に導入することで,外から自由にオン-オフが可能な光を利用した新しい代謝の制御技術の開発を目指した。
今回の研究では,藻類由来のタンパク質を利用した光誘導の代謝スイッチを構築し,大腸菌の中枢代謝経路の制御に応用した。
このタンパク質は緑色光下で特定のプロモーターの下流の遺伝子発現を誘導し,赤色光下で抑制する。
今回の研究によって開発した株では,主要な解糖系路の流れを緑色光と赤色光の照射により変えることができたという。
細胞の中枢代謝は,生育や有用物質生産において重要な現象で,生物工学や医療分野において,代謝の仕組みを理解し応用するために,迅速で可逆に代謝の流れを制御する技術が求められている。
研究グループは,今回開発した光誘導の代謝スイッチによる制御は,細胞内の代謝の流れを最適化し,高効率な有用物質の生産プロセスを確立するための有用なツールとなるとしている。