東北大学,法政大学,東京大学,国立天文台らの研究グループは,すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ「Hyper Suprime-Cam(HSC)」が撮像したデータを用いて,銀河系の最遠端をはじめて見極めることに成功した(ニュースリリース)。
銀河系は,大きく分けて天の川にあたる銀河系円盤部とそれを取り囲むハローと呼ばれる広大な領域から構成されている。かつて,どのような空間領域で銀河形成が行なわれていたのかを調べるには,ハロー全体に広がり,かつハローの端にあっても同定できるような明るい目印となる星(青色水平分枝星や,こと座RR型変光星)を用いて銀河系ハローの地図作りが行なわれてきた。
しかし,これまでの観測では口径2.5mから4mの中口径望遠鏡が使われていて,銀河系ハローの端にある見かけ上暗いものまではなかなか観測することができなかった。そこで,8.2mという大口径を持つすばる望遠鏡とHSCの組み合わせが威力を発揮することとなった。
研究グループは,銀河系ハローの地図を作るための星として青色水平分枝星に着目し,HSCの戦略枠プログラム(SSP:Subaru Strategic Program)で行なわれている広域測光サーベイのデータを解析。HSC-SSPの測光観測で用いられるg,r,i,zバンドのデータを組み合わせた天体の色の情報から,青色水平分枝星の候補天体を確率論的に導出するプログラムを開発し,太陽系からおよそ120万光年の距離まで星の性質を詳しく調べることができるようになった。
解析で得られた青色水平分枝星の空間分布は,銀河系中心からの距離とともに減少する傾向を示している。さらに,半径が約52万光年のところで急激に数が落ちており,このあたりが銀河系ハローの境界になっている可能性が高いという結果となった。
研究グループは,銀河系ハローの分布は,銀河系初期に矮小銀河と呼ばれる小銀河が合体を繰り返し壊されながら銀河系が形成される過程を反映していると指摘。特に,その空間的な大きさは,銀河系を包むいわゆるダークマターの広がり(ダークハローとも呼ばれる領域)に匹敵しており,銀河系が矮小銀河を含む小さなダークハローの合体によって形成される過程を理解する上で大変重要な要素となるという。
今後,HSC-SSPの進行に従って,より多数の銀河系ハローの青色水平分枝星を検出することが予想でき,これにより銀河系ハロー地図はさらに精密化され,銀河系の形成史に関する重要なヒントが得られるとしている。