神大,網膜内ロドプシンの一分子観察に成功

神戸大学,浜松医科大学,自治医科大学は,光受容タンパク質ロドプシンが網膜の円板膜内で一過性のクラスターを形成することを近赤外波長での単一分子追跡で明らかにすると共に,この一過性のクラスターが円板膜中央部に偏って分布し,Gタンパク質シグナル伝達のための確率的プラットフォームを提供することを見出した(ニュースリリース)。

網膜視細胞は円筒形の光受容部を持ち,その中には直径数ミクロンの円板状の膜(円板膜)が1,000層ほど積層されている。円板膜は煎餅のような形をした脂質二層膜で,その中に光受容タンパク質ロドプシンが高濃度に組み込まれている。

ロドプシンは細胞が外界の様子を知るために用意している多様なGタンパク質仲介型受容体(GPCR)と呼ばれる膜タンパク質の代表格。しかし,近年になってもロドプシンが円板膜内で自由に拡散しているのか,結晶化しているのかさえわかっていなかった。

すでに研究グループは2個のロドプシンが近接するとラフト(液体秩序相)が親和的になることを発見し,円板膜内でロドプシンが集団を作ればそれは一種のラフトになることを推定していた。

今回の研究では,ロドプシンを刺激しない近赤外領域で蛍光一分子観察し,ロドプシンが円板膜内を自由に拡散していることを確認した。しかしそれ以上のことはわからなかったため,ベイズ推論による機械学習を利用して一分子軌跡の中の異なる拡散状態の抽出を試みた。

個々のロドプシン分子が拡散によって描く「軌跡」を500個ほど集め,変分ベイズ隠れマルコフモデル解析(vbSPT in GitHub)にかけると,3状態モデルが得られ,ロドプシンは3種の拡散状態間を遷移しながら拡散していることがわかった。2量体の大きさを4nmとすると最も遅い拡散状態は100nm以上の大きさの集団(クラスター)であると推定された。

また,ロドプシンの蛍光標識率を増やすと生成消滅を繰りかえすロドプシンのクラスターを観察できることがわかった。ロドプシンの円板内分布は均一なものではなく,辺縁部にはまばらに,中央部には密にロドプシンが分布し,中央部でクラスターを作りやすくなっていることがわかったという。

研究グループは,今回の研究成果は光信号受容の分子機構解明だけでなく,視細胞の形成・維持・病変の理解にも寄与し,非常に弱い光から生活光強度まで広く対応できる眼の調節機能の仕組みに迫るものだとしている。

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